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9月
監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

食道胃接合部腺癌

進行胃食道腺癌に対するLenvatinib+Pembrolizumab+化学療法と化学療法単独の比較:第III相ランダム化比較試験(LEAP-015試験)


Kohei Shitara, et al.: J Clin Oncol. 43(22): 2502-2514, 2025

 これまでHER2陰性切除不能進行・再発胃/胃食道接合部癌に対する一次治療は、プラチナ製剤およびフルオロピリミジン系薬剤による化学療法が行われてきた。近年、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用による有効性が示され、特にPD-L1 CPSが1以上の集団において有効性が報告されている1-3)。さらに血管内皮増殖因子(VEGF)受容体を標的とした薬剤が、二次治療において有効性を示している4)。しかし、国際共同試験における全生存期間(OS)中央値は12~14カ月と依然として予後は不良である1-3)。経口マルチキナーゼ阻害剤であるLenvatinibは、in vivoで抗PD-1抗体との相乗効果を示し、Lenvatinib+Pembrolizumab併用療法は子宮体癌や腎細胞癌などを対象とした臨床試験で有効性が報告されている5,6)。胃癌では第II相試験であるEPOC1706試験において、Lenvatinib+Pembrolizumab併用療法が客観的奏効割合(ORR)69%、無増悪生存期間(PFS)中央値7.1カ月と有望な結果を示した7)

 本論文では、第III相国際共同非盲検ランダム化比較試験であるLEAP-015試験において、HER2陰性進行胃/胃食道接合部腺癌の患者を対象に一次治療としてのLenvatinib+Pembrolizumab+化学療法と化学療法単独が比較され、その有効性および安全性が報告されている。

 主な適格基準は、18歳以上、ECOG PS 0-1、RECIST v1.1で測定可能な病変を有する、PD-L1発現の評価のための腫瘍組織を有する、切除不能または転移性病変に対するsystemic therapyの既往がない、HER2陰性の切除不能または転移性胃/胃食道接合部腺癌と診断された患者であった。除外基準としては、薬剤の吸収に影響を及ぼす可能性のある消化器疾患を有する患者、抗PD-1/PD-L1抗体、VEGF阻害薬、Lenvatinibによる前治療歴のある患者、放射線療法や術前療法の適応となる患者などであった。

 パート1(Lead-in Phase)において、Lenvatinib(8mg、1日1回)+Pembrolizumab 400mg(6週間ごと2コース)+CAPOX(3週間ごと4コース)またはmFOLFOX6(2週間ごと6コース)を投与した。続いて、維持療法でPembrolizumab 400mgを6週間ごとに最大16回投与し、Lenvatinibによる有害事象がgrade 1以下、またはgrade 2の甲状腺機能低下症のみの場合、Lenvatinibを20mg、1日1回へ増量した。

 パート2(ランダム化第III相試験)では、Lenvatinib+Pembrolizumab+化学療法を行う群と化学療法単独群に1:1でランダムに割り付けた。層別化因子は、地域、ECOG PS、化学療法の種類であった。Pembrolizumabは最大2年間投与され、病勢進行なく投与を終了した患者は医師の判断でLenvatinib単剤療法を継続可能であった。主要評価項目はPFSおよびOSであった。副次評価項目は、ORR、奏効持続期間(DOR)、安全性などであった。

 OS、PFS、DORはKaplan-Meier法により推定し、群間差は層別化log-rank検定を用いて行われた。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)の算出はCox比例ハザードモデルを使用した。OSの最終解析は、PD-L1 CPS≧1の患者において537例の死亡が確認された時点、および最終登録患者のランダム割付から18カ月後に実施される予定であった。全体のtype 1 errorは片側α=0.025で管理され、PD-L1 CPS≧1の患者におけるOSに対して片側α=0.018、PFSに対して片側α=0.007が割り当てられた。

 パート1では、2020年12月30日から2021年1月27日までに15例の患者が登録された。計2件のDLTが発生したがいずれも化学療法と因果関係を有する有害事象で、パート2への登録基準を満たした。パート2では、2021年5月11日から2023年3月31日までに24カ国157施設から880例の患者がランダムにLenvatinib+Pembrolizumab+化学療法群(443例[Lenvatinib群])または化学療法単独群(437例[化学療法群])に割り付けられた。ベースラインの患者背景は両群間で良好に均衡がとれていた。患者の年齢中央値は61歳(範囲21~84歳)で、689例(78%)がPD-L1 CPS≧1であり、662例(75%)が胃癌であった。

 ランダム割付からの期間中央値31.8カ月(範囲19.0~41.7)の時点において、治療を完了した患者はLenvatinib群25例(6%)、化学療法群8例(2%)、治療継続中の患者はLenvatinib群35例(8%)、化学療法群6例(1%)、治療を中止した患者はLenvatinib群381例(86%)、化学療法群415例(97%)であった。

 中間解析で、PD-L1 CPS≧1の患者において、フォローアップ期間中央値20.8カ月(範囲7.6~30.2)でLenvatinib群が化学療法群に対して統計学的有意にPFSが延長し事前に設定した基準を満たした(中央値7.3カ月 vs. 6.9カ月、HR=0.75[95% CI: 0.62-0.9]、p=0.0012)。24カ月PFS割合は20% vs. 7%であった。全患者においても統計学的有意にPFSを延長し(中央値7.2カ月 vs. 7.0カ月、HR=0.78[95% CI: 0.66-0.92]、p=0.0019)、24カ月PFS割合は21% vs. 8%であった。最終解析において、PD-L1 CPS≧1の患者におけるOSは、Lenvatinib群と化学療法群との間で有意差は認められなかった(中央値12.6カ月 vs. 12.9カ月、HR=0.84[95% CI: 0.71-1.00]、p=0.0244)。24カ月OS割合は31% vs. 23%であった。

 Lenvatinib群と化学療法群において、後治療を受けた患者は202例(46%)と273例(63%)、化学療法を受けた患者は196例(44%)と255例(58%)、免疫療法を受けた患者は20例(5%)と83例(19%)であった。

 中間解析時におけるORRは、PD-L1 CPS≧1の患者においてLenvatinib群で59.5%(333例中198例[95% CI: 54.0-64.8])、化学療法群で45.4%(355例中161例[95% CI: 40.1-50.7])であり、全患者ではそれぞれ58.0%(443例中257例[95% CI: 53.3-62.7])、43.9%(437例中192例[95% CI: 39.2-48.7])であった(いずれもp<0.0001)。PD-L1 CPS≧1の患者におけるDORの中央値(範囲)は、Lenvatinib群で8.5カ月(1.0-27.7)、化学療法群で6.5カ月(1.0-25.8)であった。

 治療期間の中央値(範囲)は、Lenvatinib群と化学療法群でそれぞれ6.5カ月(0-41)、5.6カ月(0-41)であり、Lenvatinib群の各薬剤に関しては、Lenvatinibが6.0カ月(0-41)、Pembrolizumabが5.6カ月(0-30)であった。Lenvatinibのdose intensityの中央値(範囲)は、全体では8.0mg/日(2-19)、 導入期で7.9mg/日(2-10)、強化療法期で11.5mg/日(2-20)であった。Lenvatinib群の441例中200例(46%)でLenvatinibが20mg、1日1回まで増量された。

 Grade≧3の有害事象は、Lenvatinib群350例(79%)に対し化学療法群276例(64%)で発生し、好中球減少(25% vs. 24%)、高血圧(12% vs. 1%)、貧血(8% vs. 10%)、下痢(5% vs. 3%)などであった。有害事象によるいずれかの薬剤の中止は、Lenvatinib群で146例(33%)、化学療法群で116例(27%)に認め、Lenvatinib群では106例(24%)がLenvatinibを、79例(18%)がPembrolizumabを、54例(12%)が両薬剤を中止した。Grade 5の薬剤関連有害事象はLenvatinib群24例(5%)、化学療法群2例(<1%)に発生した。免疫介在性有害事象はLenvatinib群で202例(46%)に認め、grade≧3は44例(10%)に発生した。

 Lenvatinib群は化学療法群と比較し、PD-L1 CPS≧1の患者および全患者においてPFSの有意な改善を示した(中央値7.3カ月 vs. 6.9カ月、7.2カ月 vs. 7.0カ月)。しかし両者の差はわずかであり、臨床的意義は限定的と考えられる。開始後約4カ月までKaplan-Meier曲線の解離がなかったことは、治療開始早期のLenvatinibおよびPembrolizumabによるベネフィットが限定的であることを示唆している。RAINBOW試験4)とは対照的に、VEGF阻害剤とフルオロピリミジン系薬剤、プラチナ製剤との併用によりOSベネフィットが得られなかったが、これはRAINFALL試験8)およびAVAGAST試験9)と同様であり、相乗効果が乏しい可能性がある。

 KEYNOTE-859試験の結果との差異を説明しうる要因としては、LEAP-015試験の試験治療群において3カ月で化学療法を中止したこと、化学療法群と比較してgrade≧3の薬剤関連有害事象(65% vs. 49%)および重篤な有害事象(51% vs. 32%)の発生割合が高かったことが挙げられる。また、Lenvatinibの用量漸増に伴う有害事象が長期に影響した可能性があり、より緩やかに用量漸増することで有効性と忍容性のバランスが改善する可能性がある。

 LEAP-015試験では何らかの後治療、化学療法、免疫療法を受けた患者が両群でそれぞれ46% vs. 63%、44% vs. 58%、5% vs. 19%であり、これらの差が生存アウトカムに影響を与えた可能性がある。KEYNOTE-859試験ではPD-L1 CPSが高いほどOSベネフィットが顕著であり、LEAP-015試験においてもPD-L1 CPS≧10の患者において、OS中央値が14.7カ月 vs. 13.9カ月(HR=0.71)、PFS中央値が8.5カ月 vs. 6.7カ月(HR=0.56)と同様の結果がみられたが、両群の差は臨床的に意義が乏しい可能性が高い。

 Pembrolizumabおよび化学療法との併用におけるマルチキナーゼ阻害薬の可能性についてはさらなる検討が必要である。複数の癌種で有効性が示されているものの、最近の研究では同様の併用療法によるOSの改善は確認されていない。マルチキナーゼ阻害薬のさまざまな毒性は重要な検討事項であり、特にLEAP-015試験におけるgrade 5の治療関連有害事象の発生割合は、CheckMate 649試験およびKEYNOTE-859試験よりも高かった。有効性を維持しつつ忍容性を改善する代替戦略の検討が求められる。

まとめ
 LEAP-015試験において、切除不能進行・再発胃癌および食道胃接合部癌に対し、Lenvatinib+Pembrolizumab+化学療法は化学療法単独と比較し、PFSおよびORRを有意に改善したが、OSの改善を示すことはできなかった。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 小倉 望



監訳者コメント:
進行胃食道腺癌に対するLenvatinib+Pembrolizumab+化学療法は化学療法単独と比較しPFSとORRを有意に改善したがOSは改善しなかった

 LEAP-015試験は、切除不能進行・再発胃癌および食道胃接合部癌に対し、Lenvatinib+Pembrolizumab+化学療法と化学療法単独を比較した第III相ランダム化比較試験である。

 本試験が主要評価項目を達成できなかった要因としては、試験治療群における毒性増加により治療中断や合併症が増加し、PFSの延長がOSに結びつきにくかった可能性が挙げられる。また、試験デザイン上、試験群では化学療法を12週(CAPOX×4またはmFOLFOX6×6)で終了し、その後はLenvatinib+Pembrolizumab単独による維持療法へ移行したのに対し、対照群では化学療法を施設標準に従い継続可能であったため、累積化学療法量の差が長期OSに不利に働いた可能性がある。さらに、後治療によるOSの希釈効果も十分に考えられる。

 VEGF/VEGFR-2シグナルは、T細胞や樹状細胞の活性化抑制、ならびに制御性T細胞(Treg)、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)、腫瘍随伴マクロファージ(TAM)といった免疫抑制細胞群の誘導を介して、免疫抑制的な腫瘍微小環境を形成する10)。一方、VEGFまたはVEGFR-2を標的とした血管新生阻害療法は、腫瘍微小環境へのT細胞浸潤の増加、免疫抑制性サイトカインやTregの減少、T細胞疲労の解除をもたらし、抗腫瘍免疫に有利な環境を形成する11-13)。これまでに、免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬の併用によって、免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性が克服可能であることが報告されており、血管新生阻害薬の追加により免疫チェックポイント阻害薬の不応性を解除できることから、依然として注目すべき治療戦略である。

 今後の展望としては、忍容性が改善されているPD-1/VEGF二重特異抗体と化学療法の併用が注目される。肺癌領域では既にPD-1/VEGF二重特異抗体を用いた臨床試験が先行しており、同様の開発が消化器領域にも広がっていくことが予測される。

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監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 庄司 広和

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