ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE1

2017年6月開催

経口摂取不良の切除不能胃癌に対する
治療戦略

  • 設樂 紘平 先生設樂 紘平 先生
    国立がん研究センター
    東病院
    消化管内科
  • 沖 英次 先生沖 英次 先生
    九州大学大学院
    消化器・総合外科
  • 山ア 健太郎 先生山ア 健太郎 先生
    静岡県立
    静岡がんセンター
    消化器内科
  • 結城 敏志 先生結城 敏志 先生
    北海道大学大学院
    医学研究科内科学講座
    消化器内科学分野

ディスカッション 3 出血への対応Discussion 3

胃原発巣からの出血に対してどのように対応するか?

出血の状態に応じた対応を検討

設樂Ramucirumab+PTX療法を2サイクル施行後に腫瘍縮小、リンパ節縮小、腹水減少を認めたものの、さらに3サイクル施行した結果、胃原発巣からの出血に伴う貧血で緊急入院になりました(図3)。胃癌原発巣からの出血に対しては、放射線療法、緩和的手術、interventional radiology(IVR)、化学療法の変更などの治療選択肢があると思います。本症例はステージ4で、腹膜播種やリンパ節転移があることを踏まえると、どのような選択をされますか。

結城おそらく最初にIVRを行い、責任血管を同定できなければ放射線療法を選択することになると思います。

設樂IVRの前にはダイナミックCTを撮るのでしょうか。

結城そうですね。放射線科の先生と相談して実施することになると思います。

設樂放射線療法の場合の照射量はどれくらいですか。

結城ケースバイケースで放射線科の先生が決定されることが多いのですが、おそらく30〜40グレイだと思います。

IVRの実施には責任血管の同定が重要

設樂沖先生はいかがですか。

私も出血が止まらないのであればまずIVRを実施すると思いますが、IVRで止まらない場合に放射線療法を施行しても止血は難しいように思います。じわじわとした出血であれば化学療法や放射線療法を選択するかもしれません。大量出血であればまずIVRを行い、それでも止まらない場合、もし可能なら姑息切除を選択します。

山ア先生

山ア私は責任血管が同定できないくらいの出血だったら放射線療法を選択しています。

結城確かに、IVRを実施しても責任血管が見つからないことも多いですね。

じわじわとした出血が小弯側で生じているようであれば、無選択的な塞栓でも止まることもあり得ると思います。

結城そうなのですか。当院は見極めるタイミングが早すぎるのかもしれません。

設樂当院でもケースバイケースですが、内視鏡にて止血困難な動脈性の出血であれば必要に応じてダイナミックCT撮影を行い、責任血管を想定した上で同日にIVRを施行します。ただ、進行胃癌に伴う出血は腫瘍全体からのoozingの場合が多く、このような場合で繰り返しの輸血が必要な場合には、放射線療法を検討しています。ただ、沖先生がおっしゃったようにIVRで止血できなかった大量出血に、放射線療法を選択しても止血は厳しいように思っています。

Oozingに対する放射線療法は治療選択肢の一つ

山ア設樂先生、放射線療法は単独療法がよいのか化学療法との併用がよいのか、そしてどのくらいの照射量・期間が適切なのでしょうか。

設樂胃原発巣の出血に対し放射線療法を後方視的に検討した4つの検討では、30または40グレイの照射で約70%の奏効率が得られています5-8)

山ア逆に、放射線療法で出血量が増加した経験はありますか。

沖先生

設樂止血できず、IVRを実施した症例も少数例経験しています。しかし、oozingに対してはIVRでは止血は厳しいと感じています。ただし、放射線療法は比較的副作用が少ないので、治療選択肢の一つとしてはよいと思いますし、もし本症例が1st-line前に貧血が悪化した場合には、放射線療法を先行させたと思います。沖先生に伺いたいのですが、出血抑制を目的とした姑息切除についてはどのようにお考えになりますか。

病変にもよりますが、出血が明らかであれば考慮してよいと思います。ただし、ここで想定されているのは、膵浸潤があるような進行症例でしょうから、その場合は姑息切除もできないと思います。

設樂ありがとうございます。経口摂取不良で貧血を呈する症例に対する治療は化学療法が中心となりますが、バイパス術や放射線療法などもプラスアルファの効果が期待できますし、多職種でのディスカッションが重要だと思います。本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。

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