ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE4

2017年8月開催

RAS遺伝子変異型、局所進行、S状結腸癌
に対する治療戦略

  • 砂川 優 先生砂川 優 先生
    聖マリアンナ医科大学
    臨床腫瘍学
  • 谷口 浩也 先生谷口 浩也 先生
    愛知県がんセンター
    中央病院 薬物療法部
  • 佐藤 武郎 先生佐藤 武郎 先生
    北里大学医学部
    下部消化管外科
  • 工藤 敏啓 先生工藤 敏啓 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座

ディスカッション 1 局所進行例に対する1st-lineDiscussion 1

局所進行性大腸癌の1st-lineとしてどの化学療法レジメンを選択するか?

砂川今回提示する症例は、50歳の男性で、RAS遺伝子変異型、局所進行性のS状結腸癌の方です。1週間前から血便が出て、腹痛を訴えて近医を受診し、レントゲン検査でイレウスを疑われ、近隣の病院へ紹介されました。若年で既往歴や合併症、家族歴はまったくありません。CT検査で結腸に約8 cmの腫瘤を認め、サブイレウスと診断し、緊急ストマ造設術が施行されました。術後のPSは良好で、臨床検査値で軽度の炎症反応が出ていることを除き、特に問題となる所見はありませんでした。病理組織検査の結果はtub1、RAS遺伝子変異型で、UGT1A1遺伝子多型は*28/*6とダブルヘテロ型でした。ストマ造設後のCT所見をみると、腫瘍はかなり大きく、膀胱浸潤が疑われましたが、幸いなことに膀胱鏡検査では粘膜異常はなく、尿所見にも異常はなかったため、局所進行癌と診断されました。

RAS遺伝子変異型、局所進行例に対する治療レジメン

砂川先生

砂川先生方はこの症例に対してどのような治療を考え、1st-lineとしてどのレジメンを選択されますか。

佐藤ストマ造設時に腹膜播種がないことを確認しているのですよね。

砂川はい、そうです。

佐藤そうであれば局所進行例であることを考慮して、Oxaliplatinベースの化学療法+Bevacizumabになると思います。若年で服薬アドヒアランスが良さそうなので、XELOX+Bevacizumab療法で開始すると思います。

谷口この症例は現時点で切除可能なのでしょうか。

砂川切除可能だとしても、骨盤内全摘が必要となるのでしょうか。佐藤先生、いかがですか。

佐藤そこまでは必要ないと思いますが、腫瘍は大きいので手術はかなり難渋すると思います。

谷口どの程度縮小させたいのかによって選択肢は変わってくると思いますが、FOLFOX療法またはFOLFOX+Bevacizumab療法が第1選択になると思います。現時点では切除マージンが十分にとれないので縮小させて欲しいという外科の依頼があれば、FOLFOXIRI療法またはFOLFOXIRI+Bevacizumab療法も検討します。

工藤CT画像で腹水が出ているようにみえるものもありますが、腹水はないのですね。

砂川ありません。腹膜播種はまったく認められませんでした。

工藤そうであれば、UGT1A1遺伝子多型がダブルヘテロなので少し迷いますが、50歳という年齢を考慮して、FOLFOXIRI+Bevacizumab療法を選択します。ただし、Irinotecan用量をどうするかが課題になりますので、最初は例えばFOLFOX+Bevacizumab療法で開始し、骨髄抑制の程度を見つつ、2コース目からIrinotecanを乗せていくのもよいかと思います。

砂川局所進行性大腸癌で手術施行前に化学療法を行いたいという状況で、転移性と比べて何かレジメン選択で意識することはありますか。

佐藤局所進行例は切除すれば治癒する可能性があるわけですから、手術の邪魔になる化学療法は行いたくありません。この症例のように、腫瘍はbulkyですが縮小すれば手術はそれほど難しくない症例であれば、手術を行う外科医の立場からすると、無理してIrinotecanを使用するよりも、Oxaliplatinのほうが望ましいと思います。Irinotecanの使用例では肝臓が豆腐のように柔らかく変化してしまいますから。

谷口佐藤先生、Bevacizumabで術後の合併症が増えることはありますか。

佐藤いいえ。多くの症例を経験してきましたが、問題ありません。

谷口そうなのですね。私は術後の合併症を気にしてBevacizumabを使用するかどうか迷うことが多いです。実際に、FOLFOXやFOLFOXIRIにBevacizumabを併用することでの奏効率の上昇は認めていませんし。

佐藤局所進行例でも肝転移例でも、投与後に十分な休薬期間をおけば、Bevacizumabを使用しても問題はないと思います。

谷口そうなのですね。現時点でそれほど腫瘍を縮小させなくても切除可能ということであれば、化学療法2剤併用±Bevacizumab療法でよいのではないかと思います。

工藤腫瘍がどの程度縮小すれば手術がある程度容易になるかが実感できないのですが、より強力な抗腫瘍効果を期待するのであれば、化学療法3剤併用療法がよいと考えました。

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