ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE4

2017年8月開催

RAS遺伝子変異型、局所進行、S状結腸癌
に対する治療戦略

  • 砂川 優 先生砂川 優 先生
    聖マリアンナ医科大学
    臨床腫瘍学
  • 谷口 浩也 先生谷口 浩也 先生
    愛知県がんセンター
    中央病院 薬物療法部
  • 佐藤 武郎 先生佐藤 武郎 先生
    北里大学医学部
    下部消化管外科
  • 工藤 敏啓 先生工藤 敏啓 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座

ディスカッション 3 2nd-lineの血管新生阻害薬の選択肢Discussion 3

2nd-lineにおける血管新生阻害薬をどのように使い分けるか?

砂川この症例は、XELOX+Bevacizumab療法で治療開始し、3コース施行後にPRが得られていますが、6コース後の評価では、原発巣は縮小していたのに、多発性肝転移が出現しました(図1、図2)。PSは0で末梢神経障害はgrade 1が残っていますが、肝腎機能に異常はありません。

2nd-lineの選択肢

砂川こうした病態の患者さんの2nd-lineとしてどのレジメンを選択しますか。

佐藤Irinotecanベースの化学療法にBevacizumabとRamucirumabのどちらかを併用することになると思いますが、どちらを選択するか悩みます。Afliberceptは使用経験がないので現時点では選択肢から除外します。若年で腎機能が保持されていることを考えると、Irinotecanベースの化学療法は行いやすいと思いますが、UGT1A1遺伝子多型がダブルヘテロですから、Irinotecan用量は調整する必要があります。これらを勘案するとFOLFIRI+Ramucirumab療法になると思います。

谷口この方は1st-lineを内服レジメンのXELOX療法で開始していますから、ポート造設を嫌がる可能性を考慮して、XELIRI、IRISにBevacizumabを併用することになると思います。ポート造設を受け入れてくれるならば、エビデンスは乏しいものの、新しい血管新生阻害薬に期待してFOLFIRI+Ramucirumab療法も選択肢となります。

工藤レジメン選択の前に1つ質問させてください。この症例は原発巣が縮小したときに切除しなかったのはなぜですか。

砂川切除することを目指し、腫瘍を評価したら、肝転移が出現していました。

工藤わかりました。2nd-lineのレジメンですが、私はFOLFIRI+血管新生阻害薬で行うと思います。血管新生阻害薬は新しい薬剤を使用したいところですが、実際にこうした症例に遭遇する機会は少なく、使用した経験はありません。

血管新生阻害薬の使い分け

砂川RAS遺伝子変異型の場合、2nd-lineでは血管新生阻害薬は3剤が使用可能ですから、どう使い分けるかが課題です。しかしながら、直接比較したデータはありません。RamucirumabはRAISE試験、AfliberceptはVELOUR試験で、化学療法併用下でプラセボとの比較が行われており、RAISE試験では前治療でBevacizumabが全例に使用されています2,3)。一方、VELOUR試験では前治療でBevacizumabを使用していた症例は全体の約3割でしたが、前治療Bevacizumab有り無しのサブグループ解析では、有り無しに関わらずAfliberceptの有効性が示されています4)。毒性に関して、RAISE試験、VELOUR試験では、プラセボ群に比べてそれぞれの薬剤を併用した群で、好中球減少、出血、蛋白尿などを強く認めています。米国NCCNガイドラインでは、血管新生阻害薬の使い分けに関して、毒性と薬剤費を考慮してBevacizumabの使用を推奨する、ともあります5)。バイオマーカーに関しては、最近、AfliberceptはBRAF遺伝子変異例に有効だというデータも報告されましたが6)、血管新生阻害薬に共通する作用かもしれません。先生方は、RAS遺伝子変異型の2nd-lineにおいて血管新生阻害薬をどのように使い分けていますか。

佐藤この症例はXELOX+Bevacizumab療法の施行は6コースで、Bevacizumabの投与期間はそれほど長くありませんから、Bevacizumabは残してもよいと思います。しかし、Bevacizumabの投与期間が1年半などと長い場合には切り替えを検討します。RamucirumabとAfliberceptの選択はものすごく難しいですが、VELOUR試験には、一次治療でBevacizumabの使用例が約3割程度しか含まれていなかったことを考慮すると、Ramucirumabを選択することになるかと思います。

谷口私も血管新生阻害薬の使い分けは難しいと感じています。最近では、新しい血管新生阻害剤に期待して2nd-lineとしてFOLFIRI+Ramucirumab療法を選択する機会が増えています。例数は少ないものの、長期生存例を経験していることも影響していますね。両者は作用点が異なりますので、Bevacizumabは無効でもRamucirumabは効果を発揮する、またはその逆といった患者さんが存在するのではないかと推測しています。

谷口先生

砂川使い分ける基準は何かありますか。

谷口いいえ。前治療もほとんど考慮していません。TML試験とRAISE試験の生存曲線を見ると、間接比較になりますが長期生存例はFOLFIRI+Ramucirumab群で多い印象です。ただし、有害事象はRamucirumabのほうが少し強いと思います。ですので、最大限治療したい、新しい薬に賭けてみたいという考えの患者さんにはFOLFIRI+Ramucirumab療法を選択し、安心・安全にある程度効果を期待したいという患者さんにはIRISやXELIRI、FOLFIRIのいずれかにBevacizumabを併用しています。Afliberceptについては、これからどのように患者さんに使っていくかを検討しているところです。

砂川FOLFIRI+Ramucirumab療法を行うときに、Irinotecan用量はどうしたらよいでしょうか。

谷口この症例はUGT1A1遺伝子多型がダブルヘテロですから減量して開始し、徐々に増量していくのがよいでしょう。100-120 mg/m2から開始すると思います。

砂川UGT1A1遺伝子多型が野生型の場合はどうされますか。

谷口野生型の場合、65歳以下だったら180 mg/m2とします。

砂川佐藤先生は使い分けについて、何か補足がありますか。

佐藤使い分けはやはり難しいと思います。エビデンスもない上に、例えばPlGF発現量を確認しようとしても実臨床では測定できないのが現状です。マイクロサテライト不安定性(MSI)など、今後血管新生阻害薬のバイオマーカー論議が盛んになると思いますから、そこに期待しています。

Bevacizumabを使用し続ける場合

砂川視点を変えて、Bevacizumabを使用し続けるのは、どのような症例ですか。先ほど佐藤先生からはBevacizumabの投与期間に関するお話がありましたが。

佐藤原発巣では奏効しているのに転移巣が増悪してきたような、部位によって抗腫瘍効果に乖離がある症例では、正直なところ変更したくなります。ただし、奏効期間が長く、肝臓の病変が少しだけ大きくなってきたような症例では、OxaliplatinをIrinotecanに変更して、他の薬剤は継続するのも選択肢になると思います。また、患者さんの病態によっては、Ramucirumabを使用すると蛋白尿が出やすいことにも留意が必要です。Ramucirumabで蛋白尿が出て、血管新生阻害薬が使用できなくなってしまうリスクを考えると、Bevacizumabを長期に使用したほうがよいという考え方もあります。

砂川谷口先生、Bevacizumabを使い続けるとしたら、どのような症例でしょうか。

谷口やはり、安全性を重要視する場合です。Bevacizumabの使用後という背景を考慮する必要はありますが、Ramucirumabの投与例の新たに蛋白尿が出現した症例を経験していますし、ネフローゼを発症した患者さんもいます。ですから、安全性を重要視するならばBevacizumabの継続投与です。Afliberceptのエビデンスは1st-lineでBevacizumabを使用していない症例も含まれていますので、1st-lineを化学療法のみで行った症例で特に選択肢になると思います。

砂川工藤先生はいかがでしょうか。どのような症例でBevacizumabを使用し続けますか。

工藤先生

工藤薬剤費の観点からBevacizumabを選択される患者さんもおられると思います。私自身は1st-lineのBevacizumab投与期間が短い場合に変更するのは問題ないと思いますが、長い場合には迷います。TML試験とVELOUR試験のOSのサブ解析をみると、一次治療のBevacizumabが長く続けられた症例ではBBPもしくはAfliberceptが若干良い傾向を示していますが、あくまでサブ解析ですので確定的なことは言えません。長く投与できたからこそ、Bevacizumabを使用し続けたほうがよいのか、それとも抗VEGF抗体以外の血管新生阻害薬に変更したほうが良いのか、答えは出ていないと思います。また、前治療期間が長かったときの対応ですが、一次治療の期間が長く十分にフッ化ピリミジンが投与されたと判断した場合には、次治療ではフッ化ピリミジンを除いて投与する場合もあります。(例:FOLFIRI+BevacizumabではなくIrinotecan+Bevacizumabのように)

砂川投与期間が短い場合には変更する、長い場合には今以上の抗腫瘍効果を期待するのであれば変更すると考える先生も多いように思いますが、いかがでしょうか。

佐藤エビデンスがなく、コンセンサスも得られていないと思いますが、私は新規病変が出現したときには血管新生阻害薬を変更する、既存の病変が少し大きくなった程度であれば併用する化学療法剤を1剤変更するという感じで対応しています。明確な線引きは難しいと思います。また、Bevacizumabしかなかった時代は患者さんに継続を勧めやすかったのですが、他に選択肢のある今では継続を勧めにくくなったと感じています。

谷口私も前治療期間でBevacizumabとRamucirumabを使い分けていません。あくまで2nd-lineのキードラッグはIrinotecanだと思います。ただし、患者さんの中には1st-lineで効果がなかった薬剤を2nd-lineでなぜまた使うのかと考える方がいますから、そうした場合にはRamucirumabへ変更するほうが、患者さんが治療に前向きになれる場合もあります。

砂川増悪のパターンについてはいかがでしょうか。縮小していた既存病変が増大したのか、新規に病変が出現したのかで使い分けるかどうかです。

佐藤どちらの場合でも変更できるときには変更しています。特に新規病変が出現したときには変更しないと腫瘍がコントロールできなくなってしまうことがありますから、積極的に変更を検討します。

谷口私もやはり新規病変が出現したときには積極的に変更するようにしています。

工藤私も同様です。OxaliplatinをIrinotecanに変更するのと同時に、血管新生阻害薬も変更します。

砂川なるほど。薬剤の使い分けや変更の方針についてだいぶ整理できたように思います。ESMO 2017ではRAISE試験のバイオマーカー解析の結果が発表されると思いますから、その結果から血管新生阻害薬の使い分けが一歩進むかもしれません。先生方、本日は活発な討論をありがとうございました。

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