ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE6

2017年10月開催

PS不良の大腸癌多発肝転移例
に対する治療戦略

  • 牧山 明資 先生牧山 明資 先生
    JCHO 九州病院
    血液・腫瘍内科
  • 加藤 健 先生加藤 健 先生
    国立がん研究センター
    中央病院 消化管内科
  • 小 雅人 先生小 雅人 先生
    医療法人薫風会 佐野病院
    消化器がんセンター
  • 坂井 大介 先生坂井 大介 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座

ディスカッション 1 PS不良の盲腸癌多発肝転移に対する治療

盲腸癌多発肝転移例(Stage IV)に対する治療をどのように進めるか?

牧山1症例目は64歳の女性で、主訴は腹痛でした。1ヵ月前から右側腹部の間欠的な腹痛があり、前医で精査の結果、盲腸癌の多発肝転移と診断されました。当院の外科を紹介受診する予定だったのですが、腹痛が激しかったため、予定外に救急外来を受診された方です。合併症として高血圧がありました。腹痛が激しかったためPSは2としました。右側下腹部に5 cm大の可動性の腫瘤を触知しましたが、診察中に痛みは自然に軽減しました。
血液検査の結果をみると、白血球数が増加しており、ALT、ALP、γ-GTPの上昇、LDHの上昇を認めました。CRPは3 mg/dL、腫瘍マーカーはCEAとCA19-9が上昇していました。
前医で行った下部消化管内視鏡検査では、盲腸2型腫瘍で、下部消化管の奥にスコープが挿入できず、生検では低分化型腺癌と診断されました(図1)。CT検査では、多発肝転移が認められ、リンパ節も腫脹しており、少量の腹水も認められました(図2)。

(図1)下部消化管内視鏡検査(前医)
  • 盲腸2型腫瘍。バウヒン弁下唇・回腸末端に浸潤し挿入不可
  • 生検にて低分化型腺癌の診断(前医)
(図2)CT所見(前医)
  • 回盲部に壁肥厚を認め、傍結腸〜SMV周囲に多数のリンパ節腫大
  • 肝両葉に多数の腫瘤を認める。腹水少量あり。

牧山この症例は盲腸癌の多発肝転移、Stage IVと診断されました。この時点ではRAS遺伝子変異の有無は不明で、UGT1A1遺伝子多型も未検査でした。この症例の治療方針について、先生方のご意見をお聞かせください。まず外科医の立場から、小先生、お願いします。

肝転移巣はCT画像をみる限り、手術適応はないと思いますから、原発巣をどうするか考えます。原発部位と思われる回盲部に壁肥厚があり、狭窄により激しい腹痛を起こしたのではないかと思います。原発巣を切除するか、あるいは切除するためには血管を処理しないといけませんが、周囲にリンパ節がたくさんあって処理が難しいようでしたら、バイパス術を検討します。

牧山原発巣に対する局所治療を優先し、その後に化学療法を行うという方針でよろしいでしょうか。

はい、そのとおりです。

牧山内科の立場から、坂井先生、ご意見をお聞かせください。

坂井はい、私も同じ方針です。外科のほうで盲腸原発巣を切除してもらえるのであれば、今後、長期にわたり化学療法を行う上で、狭窄や出血のリスクが軽減しますし、肝転移も前医での画像の程度であれば、化学療法を開始するのを待てると判断したかと思います。

牧山加藤先生、何かご意見はありますか。

加藤先生

加藤局所治療を優先するのか、全身治療を優先するのかというのは、臨床でよく直面する課題です。サブイレウスの状態で、救急外来を受診されたときには腹痛が激しかったこと、低分化型腺癌であること、腫瘍マーカーも高いこと、CT所見をみると肝転移巣は多発性で、一度に悪化したら対応が難しいことなどが考慮すべきポイントだと思います。イレウスはありますが、入院下で経口摂取量を減らせば、小腸が拡張しているわけではありません。そうした観点から私は、化学療法を先行させます。化学療法後に手術を行うことも考えると、Bevacizumabは使いにくいので、FOLFOX単独が選択肢になると思います。RASが野生型だと分かっていれば、抗EGFR抗体を使用しますが、PSは2なので、まずはFOLFOXで様子をみることにします。

この患者さんは1ヵ月前から腹痛が間欠的にあったのですね。

牧山そのとおりです。

そうであれば、患者さんが訴えていたのは原発巣の痛みではなく、狭窄部位に物が詰まったときに痛みが出て、流れると痛みが軽減する、というのを繰り返していたのではないでしょうか。もしそうなら、いずれイレウスになると考えて、原発巣の切除を優先したいと思います。

牧山小先生のご指摘のとおりかもしれません。痛みが軽減した後は、CTでも明らかなイレウスの所見は認められず、待機的に手術を行える状況でした。1〜2コースの化学療法であれば施行可能でしたが、近いうちに狭窄して、腸閉塞になるリスクは高い症例だったと思います。

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