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坂本: 肝転移を有する大腸癌患者を設定しました。まず手術を行うのか、それとも術前化学療法を実施するのか話し合っていただきたいと思います。肝転移巣が9個認められていますが、大村先生は積極的に切除を検討されるということですね。
大村: 本症例は身長175cm、体重72kgの男性で、腫瘤が触知できます。このように体格がよい場合は、よほど大きな肝転移でないと肝を触知しないと思います。また、Hb値が9.0g/dLであることより、原発巣から出血していると考えられます。そのため、まずは「原発巣の切除を行う」という選択肢が有力だと思います。
また、何らかの理由で術前化学療法を行う場合は、FOLFIRIに比べて血液毒性が少なく、肝転移巣を切除可能にする率が高いFOLFOX+bevを選択します。血液毒性が強い場合、G-CSFを使用して白血球数を高めたとしても、手術の際に十分機能する白血球であるかという心配があります。また、血液毒性によって手術実施を延期せざるをえない可能性もあります。
Bevについては、術後創の治癒を遅延させるおそれがあります。mFOLFOX6+bevを行った場合には、手術日から逆算してbevを止めてwash-outし、次
いでmFOLFOX6を止めて手術に臨みます。なお、肝転移巣が切除可能と判断されない場合には、mFOLFOX6+bevを継続することになりますが、当院ではmFOLFOX6にOPTIMOX12)を取り入れています。
坂本: 瀧内先生と佐藤先生のご意見は「術前化学療法としてFOLFOX+bevを選択する」ということで一致していますが、その後、肝切除が可能になった場合、大村先生が指摘されたbevの副作用については、どのようにお考えでしょうか。
瀧内: Bevについては、メリットとデメリットが報告されています。
メリットは、肝障害が抑制されるという点です。化学療法ではコースを重ねると、薬剤性肝障害の発生頻度が高まります。例えば、L-OHPベースのレジメンでは、うっ血性を特徴とする肝障害「blue liver症候群」が発現しますが、bev併用によりsinusoidal dilatation(類洞拡張)などの障害が抑制される3)という報告があります。
デメリットとしては、bevの最終投与から手術までの間隔を、5週間程度開ける必要があるという点です。そのため、「切除可能」と判断した時点と、実際に切除できるまでの間にタイムラグができてしまう。そう考えますと、cetuximabが1st-lineへの承認後は、KRAS statusにもよりますが、今回のような肝転移のみの症例に対して、奏効率の高さや、手術までの待機時間が必要ないという点で、FOLFIRIあるいはFOLFOX+cetuximabが非常によいオプションになる可能性はあると思います。
坂本: FOLFIRI+cetuximabの有効性の予測因子については、KRAS status だけでなく、EGFR statusや、先日のJournal of Clinical Oncologyで報告されたBRAF status4)もあることから、効果の期待できる症例をかなり絞り込めるのではないでしょうか。
瀧内: 確かにcetuximabは、KRAS 野生型であっても、BRAF 変異型であれば無効であると報告されています。ただ基本的には、L-OHPベースのレジメン+cetuximab、あるいはFOLFIRI+cetuximabは、いずれも「KRAS 野生型でかつ肝転移のみ」の症例であれば、非常に奏効率が高い。したがって、将来cetuximabが1st-lineで承認された場合には、肝転移に対するよいオプションになると信じています。
坂本: 術前化学療法後に手術を施行すると考えた場合、佐藤先生はどのようなレジメンを選択されますか。
佐藤: 肝切除に持っていける確率が非常に高い症例であれば、瀧内先生がおっしゃったように、cetuximabの併用は有力な選択肢の1つだと思います。ただし、今回の症例のように肝腫大を触知するまでに転移が進行していると、切除に持ち込めるかどうかは詳細な情報がないとわかりません。
私は、術前化学療法としてFOLFIRI+cetuximab、FOLFOX+cetuximab、FOLFOX+bev、FOLFIRI+bevのいずれも選択肢になり得ると考えますが、今回の症例では切除不能である可能性も含めて考えて、FOLFOX+bevを選択すると思います。確かに、腫瘍が縮小して切除できると判断した場合はbevを休薬する必要があります。その際、bev休薬期間に腫瘍が少し大きくなる可能性もありますが、私はそれが逆に“ふるい”になると考えています。つまり、休薬期間に急激に大きくなる症例は、増殖速度も速いため、いくら手術を早めても再発率は高く、予後も悪いと予測できます。長期予後を期待できる症例について肝切除を実施すべきと考える場合、休薬時期における腫瘍の増殖速度がさほど速くない症例を選択できるという意味で、bevの休薬は逆にメリットになり得るのではないかと思っています。
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