WEBカンファレンス | 臨床の場で遭遇しうる架空の症例に対して、それぞれの先生方に治療方針をご提示いただき、日常診療における治療方針の選択にあたっての問題点等を議論していただいています。

CASE 17 大腸癌肝転移に対する化学療法(プレオペラティブケモセラピー)2009年4月開催

CASE17 写真

ディスカッション 4

肝切除後の補助化学療法は有効か、また推奨されるレジメンは?

坂本: では、最後の質問です。肉眼的に肝切除を行うことができた場合、術後補助化学療法を行うべきでしょうか。推奨されるレジメンは何でしょうか。また、R0とR1の場合や、切除部位などによって、レジメンは変わるのでしょうか。

瀧内: 明らかなエビデンスはありませんので、どのレジメンで、どれだけの期間、治療を継続するかは議論のあるところだと思います。私はR0と判断されている症例のなかでも、例えば、もともと腫瘍マーカーが高かった場合はやはり再発率が高いので、このような症例に対しては、何らかの術後補助化学療法が必要だろうと思います。当院では、R0で以前にFOLFOXを受けていた症例には、5-FU/LVを6ヵ月間行っています。

坂本: L-OHPは使用されないのですか。

瀧内: 確たるエビデンスがないので、使用しません。

坂本: 佐藤先生はいかがでしょうか。

佐藤: 症例によって対処法は異なりますが、実際に再発したときの治療のことも考えるべきだと思います。例えば、外科の先生から「転移巣が肝臓のみであれば、再発するまでは化学療法を行わないほうが肝臓にダメージを与えないので、再発時にまた切除しやすい」という理由で、フォローアップのみと指示があれば、それも受け入れられると思います。

坂本: 外科と内科の連携ですね。

佐藤: そうですね。ただ、「何もしないよりは何か治療をしてほしい」と希望される患者さんが多いですね。R0の症例に対する術後補助化学療法のエビデンスはありませんが、逆に負の証明もされていないので、行ってもよいと私は思っています。実際、ほとんどの症例で術後補助化学療法を行っております。それでは、どのようなレジメンを選択するかというと、これは患者さんの希望や社会的背景などを考慮して決めるべきだと思います。ただ、実際には「手術で切除できてよかった」と患者さんが喜んでいるときに、あまりアグレッシブな治療はできないことが多いため、UFT/LVやカペシタビンといった経口薬も考慮します。

坂本: 大村先生はいかがですか。

大村: R0切除ができた場合、まず切除標本で病理組織学的にどのような効果があったかを判断します。例えば、腫瘍が縮小していても、残っている腫瘍のviabilityが非常に高い可能性もあるわけです。FOLFOX+bevが有効な腫瘍のみが消失し、viabilityの非常に高い腫瘍が残ってしまった場合には、肝切除術後にFOLFIRIを行う意義があると思います。
一方、術前化学療法が非常に効果的で本当にR0の可能性が高い場合には、しばらく化学療法を休止してQOLの高い生活を楽しんでいただくという考え方もあります。この辺りは、患者さんに十分説明した上で、患者さん自身に選択していただくことになるかと思います。

坂本: R0を得られた肝転移症例は、5年生存率が40%ほどあるといわれていますね6)

瀧内: 切除可能な肝転移症例に対し、術前/術後の化学療法を行った症例と手術のみの症例との比較を行ったEORTC study7)の解釈は、非常に重要だと思います。私は、この結果に与えたインパクトは、術前化学療法にあると考えています。

坂本: おっしゃる通りだと思います。

瀧内: 実際、術後化学療法がどこまで転帰に貢献するのかは大きな問題となっており、大村先生もおっしゃったように、FOLFOX+bevの術前化学療法で成功した場合、術後の治療は何も行わないほうがよい可能性もあります。しかしながら、患者さんとのディスカッションの結果、何らかの治療を行うことになった場合のオプションとしては、やはり5-FU/LVまたは経口薬というのが、現実の対応だと思います。

佐藤: 5-FU/LVはRPMIレジメンですね。

瀧内: RPMIで十分ではないかと思います。肝切除のみと、切除後にFOLFOX療法を行った場合とを比較したJCOG0603試験がありますが、FOLFOX群の8コースの完遂率が非常に悪く、現在試験がストップしています。やはり、肝切除後のFOLFOXは、患者さんにとって非常に厳しいのではないかという印象をもっています。

坂本: 肝転移を認める進行大腸癌に対しては、最近さまざまなアプローチが提唱され、また個々の患者さんの遺伝的特性と全身状態に合わせてtailor made therapyを考慮することも必要になってきたようです。本日はどうもありがとうございました。

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