坂本:本症例は進行癌で肝両葉に転移があり、進行が非常に早いということですので、化学療法で治療することも考えられます。私は、進行の早い結腸癌であること、年齢が比較的若くPSも良いこと、患者さんが現在考えられる最善の治療を求めていらっしゃることから、まず世界的に推奨されつつある化学療法を行ってみたいと思います。手術が可能ならばできるだけ腫瘍量を減らすべく最善の方法を行います。化学療法のfirst lineでは FOLFOX+bevacizumab、second line ではFOLFIRI、third lineではCPT-11+bevacizumab+cetuximabがこれまでのevidenceをみる限り最強の方法ではないでしょうか。それでもさらにrefractoryになるようでしたら、私がアメリカで開発した、現地でPhase I/IIまで進んでいるヒト型モノクローナル抗体A33か、大阪大学の杉山治夫教授らが開発されたWT1ワクチンなどによる免疫療法の臨床試験に参加することも、試みてみる必要があるかと思います。もちろん、日本における薬剤およびその投与スケジュールの認可状況、新しい臨床研究に参加できるかどうか、costがどのくらい多額になるかなど問題は山積していますが、このように世界でどこまで結腸癌の治療が進歩しつつあるかを日本の先生方や患者さんに知っていただきたいため、以上のような情報を紹介させていただきました。それでは、瀧内先生はいかがですか。
瀧内:Stage IIから約半年で再発していますから、まずは化学療法を選択するとして、私はFOLFOX 4かmFOLFOX 6を実施し、腫瘍の縮小が得られた場合には、外科療法にもっていきます。FOLFOXを選択する理由ですが、GERCOR studyにおいてfirst lineでFOLFIRIとFOLFOX 6を比較した場合、FOLFOX 6をfirst lineとするほうが肝切除率が高かったためです(Journal of Clinical Oncology 2004; 22: 229)。特に、R0切除率が高かったことから、FOLFOXをfirst lineとして行い、腫瘍縮小を狙います。Second lineとしてはCPT-11 150mg/m2を単剤投与します。米国などではfirst lineがFOLFOX+bevacizumabで、second lineがCPT-11単剤、third lineがCPT-11+cetuximabという順番になると思います。
坂本:日本ではbevacizumab、cetuximabは未承認ですが、個々にIRBを通して臨床試験のなかで実施することは可能ですね。
大村:私は外科医の立場から切除することを先に考えましたが、いわゆる切除不能と捉えて化学療法を中心に考えるなら、FOLFIRI regimenを選択します。Second lineは、FOLFOX 4、あるいはmFOLFOX 6 regimenです。Cetuximabやbevacizumabは、cost utilityがかなり低いと思います。実際の医療の現場で容認され得るのかどうか、今後は医療経済学的観点からも議論されることになると思います。
坂本:Cetuximabを1年間投与すると、1,000万円以上になりますね。
大村:DPCを導入して大腸癌の手術を行った場合、手術料は別途、約50万円かかります。そして、その手術により約7割の患者さんは治癒します。一方、cetuximabを投与すると数百万円から1,000万円かかります。投与によるMSTの延長は3〜4ヵ月ですが、その間のQOLは決して良好とはいえないでしょう。こうしたcost utilityの低さが、今後、海外でも問題になってくると思います。
坂本:この症例のように、患者さんの希望として費用の負担を厭わないといわれた場合にどのように判断するかが難しいですね。なお蛇足かもしれませんが、日本で認可されていない薬剤を臨床で使う場合、個人輸入していただき、患者さんごとに治療施設のIRBの承認を得て、さらに患者さんのインフォームド・コンセントをしっかりとらなければならないという複雑な手順が必要であることを、臨床の先生方に知っておいていただきたいと思います。