佐藤:私も手術適応は迷いましたが、進行が早いこと、また大きさから考えて他にも転移巣があるのではないかということで、化学療法を選択しました。施設によっては局所療法、いわゆる肝動注療法が考慮され得ると思いますが、私としては、この症例では全身化学療法を選択します。First lineがFOLFOX regimenで、それが無効の場合にはCPT-11に切り替えます。
坂本:CPT-11は単剤ですか、それともFOLFIRIのような併用regimenで使いますか。
佐藤:この場合、FOLFIRIは選択しないと思います。5-FUをbolus投与するIFL regimenは考えるかもしれません。しかし、TS-1の効果が全くないようですので、5-FU持続静注の継続は、副作用の面を考えるとメリットが少ないと思います。
坂本:手足症候群が出やすいですね。
佐藤:First lineのFOLFOXが無効なためにCPT-11の力を必要とするのですから、できるだけ余計な副作用は少なくし、CPT-11の投与量を増やす方向で考えます。Cetuximabとbevacizumabについては、瀧内先生と同意見です。また、経済的に余裕があって、患者さんが希望するのであれば、FOLFOXにbevacizumabを併用します。
坂本:FOLFOXが著効して腫瘍の縮小がみられた場合、投与はいつまで継続されますか。
瀧内:L-OHPによる神経毒性が問題となってきますが、OPTIMOX studyがそれに答えを与えてくれたと思います(ASCO 2004 #3525)。FOLFOX 7(6サイクル)とsLV5FU2(12サイクル)を繰り返していくという、“stop and go”の方法です。L-OHPには蓄積毒性がありますので、どこかで治療の中断が必要になります。ただ、この症例に関しては、切除が可能になった時点で外科に紹介します。
大村:腫瘍が2〜3cm程度に小さくなれば、焼灼も可能ですね。
佐藤:さらに1〜2cmにまで縮小したら、逆にそのまま化学療法を続けることも考えます。
大村:まず化学療法を行い、そのresponseをみて手術に踏み切るというご意見ですが、化学療法を行っても腫瘍の大きさに変化がないから化学療法は無効と考えて手術に踏み切るという考え方と、腫瘍が小さくなってから、すなわち化学療法が効いているのに手術に踏み切るという考え方は、どちらが正しいのでしょうか。
坂本:腫瘍の絶対量を減らすという点で、手術に優る化学療法はないわけですから、化学療法が奏効して腫瘍が縮小したから手術するという考え方に疑問はないと思いますが。
大村:化学療法により腫瘍が縮小するということは、画像で判別できないような小さな腫瘍が同時に消失していると考えられます。ですから、肉眼的に見えるものを取り除くことに価値があるのではないかと考えています。
佐藤:このような判断の微妙な症例を対象に、すぐに手術をする群と術前化学療法の後で手術をする群で比較したとしたら、私は後者のほうが成績がよいと思います。胃癌などでも同じですが、手術しても術後すぐに増悪して、化学療法を受けることもなく亡くなってしまう症例があります。しかし、化学療法が先行していれば、そのような急激に悪化する患者さんに対し、敢えて手術しないという選択が可能になり、また必ず化学療法を受ける機会が得られます。
大村:以前の化学療法の奏効率(RR)は20〜30%にすぎず、化学療法を行っても増悪する症例が多かったわけですが、FOLFIRI、FOLFOXなどのregimenを手に入れた今では、RRが50%を超えるようになりました。大腸癌治療の選択肢は増えましたね。