予防・対症療法
1) Stop-and-Goによるマネジメント
OPTIMOX 1試験では、重篤な末梢神経障害を未然に防ぐためにL-OHPを休薬してその後再投与するStop-and-Goの有効性が検討された。化学療法歴のない進行性大腸癌患者を、FOLFOX4をPDになるまで2週間毎繰り返し投与するA群と、FOLFOX7を6サイクル施行後にL-OHPを除いたsLV5FU2を12サイクル施行し、FOLFOX7を再導入するB群とに、無作為に割り付けて比較した結果、治療効果は同等であったにも関わらず、B群では治療開始後7サイクル以降に顕著に末梢神経障害が減少した5)。加えて試験データをレトロスペクティブに解析したところ、FOLFOX7を再投与する必要が強く示唆された6)。
この結果から、L-OHPによって強い末梢神経障害が出た場合は、休薬して改善してから、再開することが推奨されている。
2) Ca/Mg投与による末梢神経障害の軽減
CONcePT試験では、L-OHP投与前後にCa/Mgを投与した場合の、末梢神経障害の発現頻度や程度が検討された。中間解析でCa/Mgを投与することで、奏効率低下が指摘され試験自体が中止したが7)、その後の独立データモニタリング委員会によって再評価され、Ca/Mgの投与による奏効率の低下は見られなかったとされている。慢性末梢神経障害 (Item 1) ではCa/Mgによる抑制効果がみられたが、急性末梢神経障害 (Item 2) では効果が認められなかった (表3)8)。なお、L-OHPを休薬・再開する間歇投与 (IO) は通常投与 (CO) に対して慢性、急性いずれも有意に末梢神経障害を抑制しており、OPTIMOX 1試験の結果を裏付けるものとなった。
3) Duloxetineによる疼痛減少
ASCO 2012において、PaclitaxelまたはL-OHP誘発性の末梢神経障害を有する症例を対象に、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬Duloxetineによる疼痛抑制効果を検証した二重盲検無作為化比較第III相試験 (CALGB170601試験) が発表された。用量は第1週30 mg (daily)、その後の4週間は60 mg (daily) とした。その結果、Duloxetine群はプラセボ群に比べて有意に疼痛スコアが減少した (p=0.003)9)。また、活動、気分、歩行、労働、人間関係、睡眠、および生活の楽しみに与える影響を示す障害度スコアもDuloxetine群で有意に減少した (p=0.015)。これにより、Duloxetineの服用により化学療法誘発性末梢神経障害の疼痛が減少したと結論している。
4) 現在進行中の国内臨床試験
末梢神経障害は発現時期や症状などが患者によって異なることもあり、マネジメントが十分に確立されていないのが現状である。そこで本邦でも末梢神経障害における多くの臨床試験が行われている (表4)。
減量・中止基準
当院では以下の基準を設け減量・中止を行なっている。
- FOLFOXにおいてGrade 3の末梢神経障害が出現した場合は、OPTIMOX 1試験の結果からL-OHPのみを休薬し、Grade 1まで回復したら再度導入をする。
- XELOXでGrade 3以上の末梢神経障害が発現した場合、L-OHPを休薬してGrade 1以下に軽減後、1回目であれば100mg/m2に減量をして投与再開する。2回目であれば85mg/m2に減量して投与再開する。Grade 4の末梢神経障害が発現した場合は、投与中止もしくはGrade 1まで回復後、85mg/m2で投与再開する。
日常生活上の注意点
L-OHPによる末梢神経障害は、冷気や冷たいものに触れることで症状が出現したり悪化したりするため、特に投与後5日間程度は、以下のことに注意する必要がある。
室内を冷やし過ぎず、エアコンなどの冷気が直接身体にあたらないよう心がける。 | 足先が冷えやすいので、靴下やスリッパを履いて保温し、冷たい床を素足で歩くことを避ける。 | |||
氷やアイスクリームなどの凍ったものや冷たいものを避け、室温以上の温かいものを飲む。 | 冷蔵庫内のもの、ドアノブなど冷たくなっているものを素手で直接触らないように手袋を使用する。洗濯や食器を洗う時は、素手で行わないようにする。 | |||
他の副作用との違いの見極め
Capecitabineとの併用 (XELOX) においては、副作用モニタリングの際に、Capecitabineによる手足症候群 (HFS) による手足の痛みと、L-OHPによる末梢神経障害とを混同しやすい。そのため、「ボタンがかけにくくなりましたか?」「歩いていてつまずいたりしないですか?」など、日常生活面での変化をモニタリングすることが、末梢神経障害の症状悪化を測ることができる。それに対して、HFSの評価は投与前からの患者の皮膚症状をモニタリングすることが大切であり、表5のようなシートを使用して、時系列的に評価を行い指導することが必要である。また、必要に応じて写真を撮影して変化を見ることも大切である。
Reference
- 1) Pasetto LM, et al.: Crit Rev Oncol Hematol. 59(2): 159-168, 2006 [PubMed]
- 2) Adelsberger H, et al.: Eur J Pharmacol. 406(1): 25-32, 2000 [PubMed]
- 3) Ta LE, et al.: Neurotoxicology. 27(6): 992-1002, 2006 [PubMed]
- 4) de Gramont A, et al.: J Clin Oncol. 18(16): 2938-2947, 2000 [PubMed]
- 5) Tournigand C, et al.: J Clin Oncol. 24(3): 394-400, 2006 [PubMed][論文紹介]
- 6) Buyse M, et al.: ESMO 2006: abst #329O
- 7) Hochster HS, et al.: J Clin Oncol. 25(25): 4028-4029, 2007 [PubMed]
- 8) Grothy A, et al.: ASCO 2008: abst #4010 [ASCO2008レポート]
- 9) Ellen M, et al.: ASCO 2012: abst #CRA9013 [ASCO abstract]
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