3月監修:九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授 沖 英次
肝臓癌
進行肝細胞癌に対する2nd-lineとしてのRegorafenib(RESORCE試験)
Bruix J, et al.: Lancet. 389(10064): 56-66, 2017
局所療法の対象とならない肝細胞癌患者に対しては、経口マルチキナーゼ阻害剤Sorafenibが唯一OS改善を認めた全身治療であり1,2)、Sorafenibの有用性が報告されてから10年間、1st-line3-7)およびSorafenib後の2nd-line8-11)における新規薬剤の第III相試験はすべて失敗に終わっている。しかし、Sorafenib後の2nd-lineにおけるプラセボ群のOSは8ヵ月程度であり8-11)、新たな全身療法が必要である。
Regorafenibは血管新生、腫瘍形成、転移、腫瘍免疫に関与するプロテインキナーゼの活性を阻害する経口マルチキナーゼ阻害剤であり12,13)、前臨床試験においてSorafenib以上の薬理活性を認めた12,14)。また、切除不能進行・再発大腸癌および消化管間質腫瘍(GIST)において承認されており15,16)、肝細胞癌の第II相試験において抗腫瘍活性と忍容性を認めた17)。そこで、Sorafenib治療中に増悪した肝細胞癌患者に対するRegorafenibの有効性と安全性を検証する国際共同プラセボ対照二重盲検第III相試験、RESORCE試験が行われた。
対象は、Child-Pugh AでAASLD基準18)により肝細胞癌と診断された成人患者であり、1つ以上の測定可能病変を有し、BCLC stage B/C19)、切除/局所焼灼/化学塞栓術によるベネフィットが得られない、Sorafenib治療中に増悪した患者であった。
対象患者は、地理的地域(アジア vs. それ以外)、大血管浸潤の有無、肝外転移の有無、AFP値(400ng/mL未満 vs. 400ng/mL以上)、ECOG PS(0 vs. 1)を層別因子として、Regorafenib群(160mg/day, 3週投与1週休薬)とプラセボ群に2:1で無作為化された。治療はmRECISTによる増悪、死亡、許容できない毒性、同意撤回、中止が患者の最善であると治療医が決定するまで続けられた。なお、患者が治療継続によりベネフィットを得られると治療医が考えた場合、増悪以降も治療継続できるものとした。
主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、TTP(time to progression)、奏効率、病勢コントロール率であった。プラセボ群のOS中央値8ヵ月、Regorafenib群11.4ヵ月(43%増加)と仮定し、片側α=0.025、検出力90%で、370イベントと560例が必要とされた。
2013年5月14日〜2015年12月31日の間に573例が登録され、プラセボ群194例、Regorafenib群379例に無作為化された(アジア人38%)。患者背景は両群でバランスが取れており、前治療としてのSorafenib投与期間中央値は両群ともに7.8ヵ月であった。
主要評価項目のOSの中央値は、プラセボ群7.8ヵ月、Regorafenib群10.6ヵ月であり、Regorafenib群で有意な延長を認めた(HR=0.63, 95% CI: 0.50-0.79. p<0.0001)。また、事前に設定されたすべてのサブグループにおいてRegorafenib群で良好であった。PFSの中央値はそれぞれ1.5ヵ月、3.1ヵ月、TTP中央値はそれぞれ1.5ヵ月、3.2ヵ月であり、PFSとTTPのサブグループ解析でも一貫してRegorafenib群で良好であった。奏効率はプラセボ群4%、Regorafenib群11%(CR 2例, 1%含む)であった(p=0.0047)。また、病勢コントロール率はプラセボ群36%、Regorafenib群65%であり(p<0.0001)、腫瘍縮小はプラセボ群23%、Regorafenib群49%に認められた。
有害事象はプラセボ群93%、Regorafenib群100%、治療関連有害事象はプラセボ群52%、Regorafenib群93%に認められた。最も多くみられたgrade 3/4の有害事象は高血圧(5% vs. 15%)、手足症候群(1% vs. 13%)、疲労(5% vs. 9%)、下痢(0% vs. 3%)であり、肝・胆道系障害(18% vs. 11%)はプラセボ群で多くみられた。重篤な有害事象はプラセボ群47%、Regorafenib群44%、重篤な治療関連有害事象はそれぞれ3%、10%であった。プラセボ群31%、Regorafenib群68%で有害事象による減量または中断を認め、それぞれ19%、25%で有害事象により治療中止を認めた。なお、健康関連QOLは両群で有意差を認めなかった。
以上のように、Sorafenib治療中に増悪した肝細胞癌患者に対して、RegorafenibはOSで有意な延長を認め、2例でCRを認めた。また、Regorafenib群の安全性は他の消化器癌における安全性と同様であった。
監訳者コメント:
進行肝細胞癌に対する2nd-line治療薬の登場
局所制御困難な進行肝細胞癌において、Sorafenibが唯一の有効性が示された全身性の治療である。本試験はSorafenib治療中に増悪した肝細胞癌患者に対するRegorafenib投与による有効性と安全性を示した試験である。
Sorafenibの報告から10年、Sorafenib投与後の2nd-lineとしての有効性を示す治療薬は残念ながら登場しなかった。切除不能進行・再発大腸癌および消化管間質腫瘍に承認されているRegorafenibがついにその扉を開いたのである。RegorafenibはSorafenibと同じ経口マルチキナーゼ阻害剤であり、Sorafenibより高い薬理活性を示すことが基礎研究で報告されている。
本試験において、Regorafenib群は対照(プラセボ)群と比較して全生存期間、無増悪生存期間および無増悪期間の改善を認め、サブグループ解析でもRegorafenib群で有意に改善を認めた。安全性に関しても大きな問題はなかった。今後は肝細胞癌のRegorafenib奏効例におけるバイオマーカーの解析や併用薬の検討が必要と考える。
Regorafenibの登場が進行肝細胞癌治療へのブレイクスルーとなり、肝細胞癌領域での治療薬がさらに発展していくことを期待したい。
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監訳・コメント:九州大学大学院 消化器・総合外科 助教 伊藤 心二
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