11月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也
大腸癌
SAPPHIRE試験:大腸癌患者に対するmFOLFOX6+Panitumumab療法6サイクル施行後のOxaliplatinの計画中止と継続投与の無作為化比較第II相試験
Munemoto Y, et al.: Eur J Cancer. 119: 158-167, 2019
FOLFOX+Panitumumab療法は、KRAS野生型切除不能大腸癌において、FOLFOX療法にPanitumumabを併用することで無増悪生存期間(PFS)の有意な延長が検証されたことから(PRIME試験)、標準治療の1つと認識されている1,2)。しかし、Oxaliplatinの継続投与は、蓄積性の末梢性ニューロパチー(PN)により制限され、FOLFOX 12サイクル終了後のGrade 3 PNは25%に達することが報告されている3)。PN発現割合の低下を目指して、FOLFOX7の6サイクル投与後Oxaliplatinの計画中止(stop-and-go)とFOLFOX4の継続投与が比較検討され(OPTIMOX1試験)、Oxaliplatinの計画中止が全生存期間(OS)を短縮することなくPNの発現割合を低下させることが示された4)。FOLFOX+Bevacizumab療法ではFOLFOXを継続投与した群と比較して、Oxaliplatinを計画中止した群で有意に治療成功期間(TTF)が延長することが示されているが5)、抗EGFR抗体併用レジメンにおけるOxaliplatinの計画中止の有用性に関する報告はない。SAPPHIRE試験は、RAS野生型切除不能大腸癌患者に対するmFOLFOX6+Panitumumab療法6サイクル施行後のOxaliplatinの計画中止の有用性を評価する無作為化第II相並行群間比較試験である。
主な適格基準は、RAS野生型大腸腺癌と診断されている、RECIST ver1.1に準じた測定可能病変が1つ以上ある、ECOG performance status(PS)0または1、切除不能大腸癌に対する化学療法歴がない(周術期補助化学療法は本試験治療開始6ヵ月以上前に終了していれば適格)、などとされた。また、登録28日以内の放射線治療歴や脳転移を有する症例などは除外された。
プロトコール治療は2つのパートに分けられ、登録後にプロトコール治療1(導入療法)としてmFOLFOX6+Panitumumabを6サイクル施行し、その後、無作為化され、プロトコール治療2としてmFOLFOX6+Panitumumabを継続する群(A群)とOxaliplatinを計画中止し5-FU/l-Leucovorin+Panitumumabを投与する群(B群)へ1:1に割り付けられた。各薬剤の用量は、Oxaliplatin 85 mg/m2、l-Leucovorin 200 mg/m2、5-FU急速静注400 mg/m2、5-FU持続静注 2,400 mg/m2、Panitumumab 6 mg/kgであり、1サイクル2週間であった。プロトコール治療1施行中に、PN Grade 2以上、ECOG PS 2以上、腫瘍増悪(PD)、手術、測定可能病変に対する放射線治療開始、同意撤回、Oxaliplatinもしくは5-FU持続静注が中止となった症例はプロトコール治療中止として無作為化されなかった。層別化因子は、施設、年齢(70歳以上/未満)、転移臓器個数(2個以上/未満)、無作為化時点の治療効果(CR/PR/SD)とされた。
主要評価項目は9ヵ月無増悪生存割合(9ヵ月PFS割合)、副次評価項目はPFS、OS、奏効割合、TTF、安全性であった。主要評価項目を含め、生存解析は無作為化時点が起算日とされた。また、A群のOxaliplatin継続期間、両群のPanitumumab継続期間を追加で評価した。
A群、B群ともに、閾値9ヵ月PFS割合を30%、期待9ヵ月PFS割合を50%、α=0.1(片側)、1−β(検出力)=0.9として各群44症例、不適格例を考慮して各群50例を目標症例数とした。各群で二項検定が行われ、9ヵ月PFS割合が30%以下の場合はプロトコール治療が無効であると判断することとされた。
2014年10月から2016年4月までに本邦の53施設から164例が登録された。プロトコール治療1施行中にPD、手術、副作用などによりプロトコール治療中止となった50例を除く、114例が無作為化され、同意書不備の1例を除き、56例がA群、57例がB群に割り付けられた。追跡期間中央値は19.6ヵ月であった。解析時点で、A群5例/B群7例が治療継続し、A群40例/B群40例が生存していた。患者背景は両群で差を認めなかった。A群55例およびB群53例でRAS野生型であることが確認された。
A群におけるOxaliplatin継続期間中央値は無作為化後3.8ヵ月であった。Panitumumab継続期間中央値は無作為化後、A群7.2ヵ月、B群5.8ヵ月であった。Oxaliplatinの総投与量中央値(範囲)は、A群813 mg/m2(390-1,020 mg/m2)、B群510 mg/m2(345-680 mg/m2)であった。
最終解析時点で、A群28例(50.0%)、B群29例(50.9%)にPFSイベントを認めた。9ヵ月PFS割合はA群で46.4%(80% CI: 38.1-54.9)、B群で47.4%(80% CI: 39.1-55.8)であり、両群ともにプロトコール治療が有効であると判断された。PFS中央値はA群で9.1ヵ月(95% CI: 8.6-11.1)、B群で9.3ヵ月(95% CI: 6.0-13.0)であった。層別化因子(施設を除く)を共変量とした多変量解析では、PFSのハザード比(HR)(B群vs. A群)は0.93(95% CI: 0.60-1.43)であった。TTF中央値はA群で8.1ヵ月、B群で6.1ヵ月(HR=0.90、95% CI: 0.60-1.33)であった。OS中央値は両群ともに未達(HR=1.41、95% CI: 0.69-2.88)であった。無作為化症例の奏効割合はA群80.4%、B群87.7%であった。PFS、OSのサブグループ解析では、明らかな偏りは認められなかった。探索的な原発部位別のPFS解析(中央値)では、右側A群(9例)3.8ヵ月(95% CI: 0.8-10.5)、右側B群(14例)8.0ヵ月(95% CI: 4.3-13.0)、左側A群(47例)10.5ヵ月(95% CI: 8.8-13.4)、左側B群(42例)11.5ヵ月(95% CI: 6.0-20.8)であった。
無作為化後のGrade 2以上のPN(無作為化前のGrade 2以上のPNは無作為化されずに試験終了)は、A群20例(35.7%)、B群5例(9.3%)であった。登録後のGrade 3以上のその他の有害事象として食欲不振(A群7.1%、B群5.6%)、下痢(A群7.1%、B群3.7%)、好中球減少(A群32.1%、B群38.9%)、爪囲炎(A群7.1%、B群9.3%)、ざ瘡様皮疹(A群3.6%、B群3.7%)、口内炎(A群8.9%、B群7.4%)、皮膚乾燥(A群0.0%、B群1.9%)、低マグネシウム血症(A群16.1%、B群16.7%)などが認められたが、両群に差は認められなかった。
以上より、RAS野生型切除不能大腸癌に対するmFOLFOX6+Panitumumab療法6サイクル施行後のOxaliplatinの計画中止は、選択肢の1つとなり得ることが示された。
日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 緒方 貴次
監訳者コメント:
切除不能大腸癌に対するmFOLFOX6+Panitumumab療法6サイクル施行後のOxaliplatinの計画中止は選択肢の1つになり得る
これまで、切除不能大腸癌1次治療におけるOxaliplatin計画中止による蓄積性PNの改善が検討されてきた。分子標的薬併用なしのOPTIMOX1/2試験によりフルオロピリミジンによる維持療法が4,6)、Bevacizumab併用のCONcePT試験(症例集積途中で中止)5)とCAIRO3試験7)によりフルオロピリミジン+Bevacizumabによる維持療法が、有効性を損なわずにPN発現割合が減少すること、また無治療より有効であることが示されていた。SAPPHIRE試験は第III相比較試験ではないが、Panitumumab併用レジメンにおいても同様の有用性を示唆しており、分子標的薬の有無や種類によらず、Oxaliplatin計画中止のエビデンスが出揃ったと考えられる。
また、フルオロピリミジンの計画中止は、AIO 0207試験によりBevacizumab単独療法が8)、Valentino試験によりPanitumumab単独療法が9)否定的であると判断されていることから、フルオロピリミジン+分子標的薬が最適な維持療法と考えられている。
一方で、抗EGFR抗体薬の継続投与は皮膚障害が問題となることから、mFOLFOX6+Panitumumab 6サイクル後の維持療法におけるフルオロピリミジン±Panitumumab(PanaMa試験)が行われている。左側原発RAS/BRAF野生型大腸癌に対して1次治療で抗EGFR抗体薬を投与することが推奨されているものの、1次治療期間は長期にわたることから、Panitumumab計画中止による皮膚障害出現割合低下のエビデンスが創出されることに期待したい。
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- 9) Pietrantonio F, et al.: JAMA Oncol. July 3, 2019 [Epub ahead of print]
監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 舛石 俊樹
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