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1月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 准教授 砂川 優

胆道癌

進行または再発胆道癌に対するGemcitabine+S-1併用療法vs. Gemcitabine+Cisplatin併用療法:FUGA-BT(JCOG1113)第III相無作為化試験


Morizane C, et al.: Ann Oncol. 30(12): 1950-1958, 2019

 胆道癌は肝内胆管癌、肝外胆管癌、胆?癌、乳頭部癌を含む疾患で、予後不良の疾患である。海外の第III相試験であるABC-02試験1)によってGemcitabine+Cisplatin(GC)療法はGemcitabine単剤を上回る全生存期間(OS)が示され、胆道癌の一次治療における標準治療となった。日本では無作為化第II相試験であるBT22試験2)にて同様の結果が示された。日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group: JCOG)0805試験3)において無作為化第II相試験が行われた。同試験では、Gemcitabine+S-1(GS)療法の良好な予後と忍容性のある有害事象プロファイルが示され、有望なレジメンと考えられた。

 また、GS療法では、GC療法で行われるCisplatin誘発性腎障害の予防目的に投与される2時間以上のハイドレーションが不要であり、有害事象が許容できればGS療法がより汎用性の高い治療になることが考えられた。以上の背景から進行胆道癌におけるGC療法に対するGS療法の非劣性を検証する試験が行われた。

 対象患者は、切除不能または再発胆道癌(肝内胆管癌、肝外胆管癌、胆?癌、乳頭部癌)を有する化学療法未施行の患者とした。

 層別化因子は、原発臓器(胆?癌とその他)、原発切除の有無、施設とし、対象患者は1:1に無作為化されGC療法群(Gemcitabine 1,000mg/m2、d1,8+Cisplatin 25mg/m2、day1,8、3週毎)とGS療法群(Gemcitabine 1,000mg/m2、d1,8+S-1 60, 80, 100mg/body、day1-14、3週毎)に割り付けられた。Cisplatinの投与回数は最大16回とした。

 主要評価項目はOS、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、有害事象、重篤な有害事象、奏効割合、臨床的に重要な有害事象(grade 2以上の倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐口内炎下痢と定義)、実投与割合とした。有意水準は片側5%、検出力80%、ハザード比(HR)の非劣性マージンは1.155と設定した。登録期間は4年、観察期間は1年にて予定された。

 2013年5月から2016年3月の期間に、日本の33施設において計354例の患者が登録され、GC療法群に175例、GS療法群に179例が割り付けられた。有効性は全患者を対象としたITT解析を行い、安全性は除外された6例を除く348例にて解析が行われた。患者背景はGC療法、GS療法でそれぞれ、年齢中央値(67歳, 67歳)、PS 0(74%、69%)、胆?癌(39%、39%)、切除歴あり(21%、22%)、遠隔転移(61%、60%)にて両群で差を認めなかった。

 OS中央値はGC療法群、GS療法群でそれぞれ13.4ヵ月、15.1ヵ月であった。OSのHRは0.945(90%信頼区間[CI]: 0.777-1.149)であり信頼区間が事前に設定した1.155を下回りGC療法に対するGS療法の非劣性が示された(非劣性にかかわる片側p値=0.046)。1年生存割合はGC療法群、GS療法群でそれぞれ58.3%、59.2%であった。OSのサブグループ解析では局所進行例においてGS療法群が、また、乳頭部癌においてGC群が良好な傾向を示した。

 PFS中央値はGC療法群、GS療法群でそれぞれ5.8ヵ月、6.8ヵ月(HR=0.864[95% CI: 0.697-1.070])とGS療法群で良好な傾向にあった。奏効割合はGC療法群、GS療法群でそれぞれ32.4%、29.8%であった。実投与割合は両群で概ね同等であり、GC療法群でGemcitabine 75.7%、Cisplatin 76.7%、GS群でGemcitabine 76.2%、S-1 75.3%であった。

 有害事象に関しては、grade 3以上の貧血(GC療法群24%、GS療法群6.2%)と血小板減少(GC療法群16.4%、GS療法群7.3%)がGC療法群に多く認められた。全gradeの有害事象としては、GC療法群、GS療法群それぞれ、倦怠感50.9%、44.1%、悪心36.8%、31.6%、口内炎12.9%、28.8%、下痢13.5%、20.9%、皮疹9.4%、23.7%等であった。

 事前に定義した臨床的に重要なgrade 2以上の有害事象(倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐口内炎下痢)の割合はGC療法群で35.1%、GS療法群で29.9%でありGS療法群において少ない傾向であった。治療関連死はGC療法群で3例(1.8%)、GS療法群で0例(0%)であった。

 二次治療に関してはGC療法群で143例(84%)が行っており、S-1療法76例、GS療法18例であった。一方GS療法群では143例(81%)が行っており、主にGC療法が行われた(99例)。

 本研究において、進行または再発胆道癌に対するGS療法のGC療法に対する非劣性が示された。GS療法はハイドレーションを必要としない、標準治療の新たな選択肢と考えられる。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 梅本 久美子



監訳者コメント:
GS療法は切除不能進行または再発胆道癌に対する新たな治療選択肢のひとつとなりうる

 切除不能進行または再発胆道癌に対する化学療法は、その地理的偏在などから他癌種と比較して治療開発が遅れている癌種のひとつである。しかしながら、Gemcitabineに対するCisplatinの上乗せを検証した第III相試験であるABC-02試験でGemcitabine+Cisplatin併用療法(GC療法)による有意な生存期間の延長が報告され、さらに本邦での無作為化比較第II相試験(BT22試験)での良好な治療成績の報告を経て、切除不能進行または再発胆道癌に対するGC療法が本邦における標準治療として確立されていた。

 JCOG1113では、Gemcitabine+Tegafur, Gimeracil, Oteracil Potassium(S-1)併用療法(GS療法)のGC療法に対する非劣性が検証されている。毒性についてもS-1による消化器毒性を除くと、GS療法において軽減される傾向が示されている。25mg/m2、2投1休のCisplatinは他癌種と比較して治療強度は変わらず、腎毒性を防ぐ目的で長時間の輸液を必要とする。GS療法ではこの輸液を必要としないため、患者負担の軽減および輸液による負荷が困難な合併症を有する患者などへの適応など日常臨床における治療の選択肢を広げるものとなりうる。本稿記載時点では、3剤併用のGCS療法4)が標準治療のひとつとして確立されており、これまでは少なかった切除不能進行または再発胆道癌に対する一次治療の選択肢はさらに広がっている。3種のレジメンの選択については未だ確立された規準はなく、今後のサブグループ解析などによりさらに適切な患者選択が可能となることに期待したい。

監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 水上 拓郎

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