2月
監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎
大腸癌
一次治療のCetuximabとIrinotecanに獲得耐性となった転移のあるRAS/BRAF野生型大腸癌患者に対するリチャレンジ:単群第II相臨床試験(CRICKET試験)
Cremolini C, et al.: JAMA Oncol. November 21, 2018 [Epub ahead of print]
抗EGFR抗体薬(CetuximabやPanitumumab)と化学療法の併用は、RAS/BRAF野生型切除不能大腸癌に対する一次治療のオプションとして位置づけられている1-3)。前治療の抗EGFR抗体薬と化学療法の併用に獲得耐性となった患者に対して、少なくとも1治療ライン以上の間隔を空けて再投与(リチャレンジ)することが、有効な可能性が後方視的研究より報告された4)。現在この結果は、生物学的な論理的根拠により裏付けられており、RAS野生型の腫瘍内にRAS変異型のクローンが出現することが、抗EGFR抗体薬への獲得耐性のメカニズムとして考えられている5-8)。この事象が、サブクローンに生じた晩期に獲得した遺伝子変異によるものなのか、当初は検出できなかった変異型サブクローンの選択的増殖によるものなのかは、依然として不明である。後者の仮説に基づけば、抗EGFR抗体薬ベースの治療によって、感受性のあるクローン(野生型)を減少させ、抵抗性のクローン(変異型)が次第に増殖し、その結果不応となる。抗EGFR抗体薬を含まない後治療の間に、残存している感受性のクローン(野生型)が再度増殖することが、既に報告されている抗EGFR抗体薬リチャレンジの有効性の背景となっている。さらに近年では、大腸癌腫瘍内の不均一性や、治療によって生じたclonal evolutionに関する基礎研究が集積されている。特に血中循環腫瘍DNA(ctDNA)は極めて高い腫瘍の不均一性に対する感度を有し、治療適合の戦略を促進する可能性のあるツールと考えられている5, 9-12)。一次治療の抗EGFR抗体薬を含む化学療法に不応となった時点で出現したRAS変異型は、抗EGFR抗体薬中止後に減少することが報告されている。
本CRICKET試験は、Irinotecanと抗EGFR抗体薬を含む一次治療に一度奏効後に増悪し、Bevacizumabを含む二次治療を受けた患者に対する、抗EGFR抗体薬とIrinotecanのリチャレンジの有効性を前向きに評価することを目的とした試験である。本試験では、登録した患者からリキッドバイオプシーのサンプルを前向きに収集し、抗EGFR抗体薬の獲得耐性のメカニズムについて解析し、この治療戦略のベネフィットがあるかを検討した。
本試験は、前向きのオープンラベル多施設共同単群第II相試験で、2015年1月から2017年6月までイタリアの9施設で行われた。主な選択基準は、組織学的に大腸腺癌と診断されていること、原発または転移巣のRAS/BRAFがともに野生型であること、ECOG PSは0から2、RECIST ver 1.1で測定可能病変を有すること、一次治療でFOLFIRIまたはFOLFOXIRIとCetuximabの併用療法が行われ、少なくとも部分奏効(PR)が得られていること、一次治療の無増悪生存期間(PFS)が少なくとも6ヵ月以上得られていること、一次治療のCetuximabの最終投与から4週以内に増悪が確認されていること、また二次治療でBevacizumabを含むレジメン(FOLFOXIRI、FOLFOXまたはXELOX)が行われ、一次治療の最終投与日から三次治療開始まで4ヵ月以上の間隔が空いていることとした。
患者は、Cetuximab 500mg/m2とIrinotecan 180mg/m2を2週間毎に不応、患者拒否、許容されない毒性、または同意撤回まで継続した。治療効果はRECIST ver 1.1に基づいて評価し、CTは8週間隔で行った。研究者による測定結果はセントラルレビューを行った。有害事象はCTCAE ver 4.0により分類、記録した。リキッドバイオプシーはリチャレンジ開始前に採取した。ctDNAは、BioRAD社のdroplet digital PCR法を用いて、特定のRAS/BRAF変異について解析した。また次世代シーケンサーを用いたパネル検査(Thermo Fisher社のIonAmpliSeq Cancer Hotspot Panel)を用いたctDNA解析も行った。
主要評価項目は全奏効割合(ORR)とした。フレミング法を用いた一段階デザインで、閾値5%、期待値20%とし、片側αエラー0.05、βエラー0.20とし、必要なサンプルサイズは27人と見積もった。少なくとも4人の奏効を認めることで、帰無仮説は棄却される。副次評価項目は、PFS、全生存期間(OS)、有害事象、トランスレーショナル解析の結果とした。
2015年1月7日から2017年6月19日までに28人の患者が登録された。患者の年齢中央値は69歳、18人(64%)がECOG PS 0、20人(71%)が転移診断時に同時性、25人(89%)が原発腫瘍の切除が行われており、21人(75%)が多臓器に転移を認めた一方で、5人(18%)は肝限局転移であった。転移性大腸癌の診断から試験登録まで、中央値24.4ヵ月であった。
データカットオフの2018年3月1日時点で、フォローアップ期間中央値は15.4ヵ月(四分位範囲4.35-13.25)であった。6人(21%)にPRを認め、そのうち4人はその後のCTで確定した。ORRは21%(95%信頼区間[CI]10-40%)、9人(32%)が安定(SD)、病勢制御割合は54%(95% CI: 36-70%)、25人中13人(52%)は画像評価で腫瘍の縮小を認めた。3人(11%)は、初回治療効果判定の画像評価前に臨床的に増悪が確認された。病勢制御期間中央値は9.9週(95% CI: 8.1-23.1週)、PFS中央値は3.4ヵ月(95% CI: 1.9-3.8ヵ月)、OS中央値は9.8ヵ月(95% CI: 5.2-13.10ヵ月)であった。
高頻度でみられたGrade 3以上の有害事象は、下痢(18%)、ざ瘡様皮疹(14%)、好中球減少(14%)、手足症候群(7%)であった。有害事象による治療中止や、治療拒否はなかった。計202サイクル(患者1人につき中央値4.5サイクル)投与され、そのうち29サイクル(14.4%)で遅延があり、有害事象によるものは11サイクル(5.4%)であった。35サイクル(17.3%)で減量投与された。平均相対的治療強度は、Irinotecanは87.3%、Cetuximabは94.8%であった。
リチャレンジ開始直前に採取したリキッドバイオプシーの解析では、RAS変異を25人中12人(48%)に認めた。BRAFやPIK3CA変異は認めなかった。
RAS変異はPRが得られた患者からは認めなかったのに対して、PRを得られなかった患者21人のうち12人(57%)でRAS変異を検出した。RAS野生型の患者は、RAS変異型の患者に比較してPFSが有意に改善した(PFS中央値4.0ヵ月vs. 1.9ヵ月、HR=0.44、95% CI: 0.18-0.98、p=0.03)。一方で、OSは有意差を認めなかった(OS中央値12.5ヵ月vs. 5.2ヵ月、HR=0.58、95% CI: 0.22-1.52、p=0.24)。
本試験では、IrinotecanとCetuximabベースの一次治療に獲得耐性となった、RAS/BRAF野生型切除不能大腸癌に対して、CetuximabとIrinotecan併用によるリチャレンジが有効である可能性が示唆された。ctDNAのRAS変異解析は、治療選択の参考になる可能性が示唆された。
日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 中島 裕理
監訳者コメント:
抗EGFR抗体薬のリチャレンジ
一次治療や二次治療では、比較的良好なORRやPFSが得られる一方で、後方ラインで用いられるRegorafenibやFTD/TPIの治療効果は、それぞれORR 1.0%13)/1.6%14)と腫瘍縮小に乏しく、OS効果も比較的小さいことが課題である。そのため、別の治療選択肢として後方治療において、前治療で有効性が認められた後に不応となった抗EGFR抗体薬を再投与する試み(リチャレンジ)がされてきた。抗EGFR抗体薬リチャレンジに関する複数の第II相試験が報告されているが、ORR 2.9%15)〜53.8%4)、PFS中央値1.9ヵ月16)〜6.6ヵ月4)とバラツキが大きく、前治療での抗EGFR抗体薬の有効性、抗EGFR抗体薬無治療期間、抗EGFR抗体薬の獲得耐性因子の有無など、さまざまな因子が有効性に関与していると考えられている。そのため、有効性を高めるためには、効果予測因子を用いるなど適切な患者選択が必要であるとされてきた。
近年、他癌種において血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA; ctDNA)解析の臨床的有用性が示されている。EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌では、一次治療および二次治療におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬のコンパニオン診断として、コバス®EGFR変異検出キットv2.0が、国内でも承認が得られている。一方、大腸癌でいくつかの研究成果が報告されており、KRAS野生型に対して抗EGFR抗体薬投与後のctDNA解析にて約40〜50%の患者においてKRAS、NRAS、BRAF変異などの遺伝子異常が検出され、これらが治療抵抗性に関与していることが示唆されている。
二次的に発現したRAS変異の半減期が3〜4ヵ月という報告もされている。実際、本試験においても、リチャレンジ前のctDNA解析からRAS変異が約50%検出されており、RAS変異陽性患者では奏効があまり期待できないのに対して、RAS変異陰性患者では約3割の奏効が期待できる結果であった。本報告から、リチャレンジ前のctDNA解析は、リチャレンジの有効性が期待できる集団の選別に有用である可能性が示唆された。
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監訳・コメント:関西ろうさい病院 下部消化器外科 賀川 義規
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