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4月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

大腸癌

New EPOC試験:切除可能な肝転移を有する大腸癌患者に対する全身化学療法へのCetuximab上乗せ効果を検証する第III相試験の長期フォローの結果


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Bridgewater JA, et al.: Lancet Oncol. 21(3): 398-411, 2020

 大腸癌は全身化学療法、手術、早期発見の技術などの進歩によりここ50年で5年生存率が25%から50%へ改善された。遠隔転移例においても肝転移切除後の約30%で長期生存が可能となっている1)。EPOC試験では切除可能な肝転移を有する大腸癌患者に対して周術期化学療法を行うことで3年無増悪生存率が約7%上昇することが示された2)。New EPOC試験は周術期化学療法として化学療法にCetuximabを上乗せする効果を検証した試験であるが、中間解析で想定よりも化学療法+Cetuximab療法群で無増悪生存期間(PFS)が短く2012年11月に試験中止となった。前回の中間解析の報告では21ヵ月間の追跡期間で、PFSが化学療法群で20.5ヵ月、化学療法+Cetuximab群で14.1ヵ月、ハザード比(HR)は1.48(95% CI: 1.04-2.12、p=0.030)であった3)。本報告は全生存期間(OS)を含めた最終解析である。

 本試験は英国で行われたオープンラベル、無作為化、多施設第III相試験である。

 主な適格基準は、切除可能な肝転移を有し他の遠隔転移病変を有していない、18歳以上、WHO performance status(PS)2以下である、などとされた。肝転移個数に制限はないが、原発については切除されているもしくは切除可能と判断されている必要があった。主な除外基準は、コントロールされていない併存症を有する、同意や服薬コンプライアンスに影響のある精神疾患を有する、腸閉塞がある、Grade 1以上の末梢神経障害を有する、ジヒドロピリミジン脱水素酵素欠損症やジルベール症候群などの先天性疾患の既往がある、血小板が10万/mm3以下、好中球数が1,500/mm3以下、総ビリルビンが正常上限の1.25倍以上、ALPが正常上限の5倍以上、肝酵素が正常上限の2.5倍以上、Ccrが50mL/min以下、重複癌を有する、などとされた。試験開始後にCetuximabがKRAS野生型にのみ効果があることが報告されたため、2008年7月にプロトコール改訂が行われ、KRAS変異型が除外された。試験終了後の全RAS/RAF変異の探索的検討が保存検体を用いて行われた。

 登録された患者は、化学療法群もしくは化学療法+Cetuximab群へ1:1に割り付けられた。最初の52例が割り付けられた後、2009年4月にプロトコール改訂が行われ、層別化因子として手術施設、予後不良因子、Oxaliplatinでの補助化学療法歴が加えられた。予後不良因子は肝転移個数を4個以上有する、TNM分類でN2病変を有する、低分化腺癌のうち1つ以上が当てはまる場合と定義された。

 患者は割り付けられた後、化学療法もしくは化学療法+Cetuximab療法を12週間施行され、その後に手術。術後に同様のレジメンで12週間治療が行われた。化学療法はレジメン1として2週間おきにOxaliplatin 85mg/m2を2時間、l-フォリン酸175mg/bodyを2時間(d,l-フォリン酸350mg/bodyを2時間)、5-FU急速静注400mg/m2を5分で投与したのちに5-FU持続静注2,400mg/m2を46時間かけて行うか、もしくはレジメン2として3週間おきにOxaliplatin 130mg/m2を2時間、経口Capecitabineを1~14日目に1日2回1,000mg/m2で内服することとされた。補助化学療法としてOxaliplatinを投与されたことがある患者ではレジメン3としてOxaliplatinの代わりにIrinotecan 180mg/m2が5-FU静注とともに使用された。レジメン選択はOxaliplatinの投与歴と医師、患者により選択された。Cetuximabはレジメン1、レジメン3では500mg/m2で2週間おきに併用し、レジメン2では初回に400mg/m2の投与を行い、その後250mg/m2の毎週投与が併用された。主な減量基準としては、血液毒性や消化器毒性での化学療法の20%減量やCetuximabの毒性による2週間以上の投与遅延での減量などが規定された。

 試験期間中にプロトコール改訂が複数回行われたが、最も大きな改訂はKRAS野生型にのみ登録を限定したこととそれに伴いサンプル数を改訂したことであった。

 すべての手術は英国のハイボリュームセンターで行われ、術前化学療法で効果があった病変もすべて切除することが規定された。元のプロトコールでは、可能であれば、10mmのマージンをとり切除することが推奨された。二期的切除は許容されたが、アブレーションは許容されなかった。

 すべての患者で初めの2年は3ヵ月ごと、その後増悪もしくは死亡まで3年以上6ヵ月ごとにフォローされた。診察時に胸部~骨盤部CT、血液検査、QOL評価が行われた。全身化学療法前にもRECIST v1.0で評価を行うためにCTやMRIの評価を行った。有害事象や安全性はCTCAE v3.0を用いて評価された。

 中止基準は治療中の病勢増悪、毒性、患者による同意撤回などであった。

 主要評価項目はPFS(登録日~病勢増悪が確認された日もしくは死亡日)とされ、すでに報告がされている。最終評価日に病勢増悪や死亡のイベントのない患者では中止症例とされた。副次評価項目としてOS(登録日~死亡日)が評価された。最終確認日に死亡イベントのない患者は中止とされた。長期の生存データについてはNHSのデータベースを用いて評価を行った。PFSの評価で病勢進行が不明のまま追跡ができなくなった場合、NHSで死亡日が判明したかどうかにかかわらず、最終診察日を中止日とした。その他の副次評価項目として、術前奏効割合、切除の病理学的評価(切除マージン≧1cm、<1cm、断端陽性)、安全性、QOL、費用対効果とされたが、QOLと費用対効果については本試験がnegativeであったため、評価されなかった。その他の探索的検討として、Oxaliplatin治療された患者、術前化学療法に効果を認めた患者、左側原発の患者、右側原発の患者で試験治療増悪後の生存期間が評価された。

 サンプル数はHR=0.68、α=0.05(両側)、1-β(検出力)=0.8、5%の不適格例を考慮し、1年PFS、2年PFS、3年PFSをそれぞれ67%、46%、35%と想定し、KRAS野生型の症例が268例、イベント数が212必要と判断された。

 2007年2月から2012年10月まで英国の39施設で272例が登録された。1例は割り付けの失敗のため、解析から除外された。14例(化学療法群6例、化学療法+Cetuximab群8例)ではKRAS未検査のまま割り付けが行われ、のちにKRAS変異型であることが判明もしくはKRAS不明のため、安全性以外の解析から除外された。最終解析では257例が対象となり、128例が化学療法群、129例が化学療法+Cetuximab群に割り付けられた。化学療法+Cetuximab群で1例追跡不能となった。患者背景は以前の報告と変化はなく、化学療法群と化学療法+Cetuximab群で年齢(65歳vs. 64歳)、女性割合(37% vs. 29%)、肝転移1~3個の割合(80% vs. 75%)、同時性肝転移の割合(57% vs. 68%)、高CEA血症割合(>30ng/mL)(24% vs. 26%)などに有意差はなかった。化学療法群で87例(68%)、化学療法+Cetuximab群で89例(69%)がレジメン1を選択された。レジメン2(21% vs. 19%)やレジメン3(9% vs. 12%)はレジメン1よりも少なかった。Oxaliplatinの投与歴がある症例ではレジメン3が選択されていた。

 今回の追加解析では追跡期間が全症例では66.7ヵ月であり、化学療法群では66.9ヵ月、化学療法+Cetuximab群では65.0ヵ月であった。PFSの追加解析では180のイベント(化学療法群89、化学療法+Cetuximab群91)が確認され、2013年の前回の報告と比較してイベント数が57増加した。PFSのHRは1.17(95% CI: 0.87-1.56、p=0.304)であり、PFSの中央値は化学療法群で22.2ヵ月(95% CI: 18.3-26.8)、化学療法+Cetuximab群で15.5ヵ月(95% CI: 13.8-19.0)であった。

 130例が死亡しており、化学療法群の54例(93%)、化学療法+Cetuximab群の67例(93%)が腫瘍関連死であった。残りの7%(化学療法群4例[7%]、化学療法+Cetuximab群5例[7%])はその他の原因であった。化学療法に対するCetuximabの上乗せはOSにおいてはHR=1.45(95% CI: 1.02-2.05、p=0.036)であり、OS中央値は化学療法群81.0ヵ月(95% CI: 59.6-not reached)、化学療法+Cetuximab群55.4ヵ月(95% CI: 43.5-71.5)であった。

 術前化学療法の奏効割合は化学療法群で78例(61%)、化学療法+Cetuximab群で93例(72%)であり、両群に有意差は認められなかった(p=0.383)。

 全体では257例中221例(86%)が手術を受け、化学療法群113例中108例(96%)、化学療法+Cetuximab群108例中100例(93%)が切除を受けた。R0切除は化学療法群89例(82%)、化学療法+Cetuximab群79例(79%)であった。化学療法群82例、化学療法+Cetuximab群85例の全167例における増悪後のPFSは化学療法群33.5ヵ月(95% CI: 25.3-41.2)、化学療法+Cetuximab群23.5ヵ月(95% CI: 16.0-31.3)であった(HR=1.55、95% CI: 1.07-2.24、p=0.020)。

 KRAS野生型症例のうち、140例において全RAS/RAFの評価が可能であった。24例(17%)で変異が認められ、13例がKRAS変異、4例がNRAS変異、7例がBRAF変異であり、化学療法群で12例(KRAS変異8例、NRAS変異1例、BRAF変異3例)、化学療法+Cetuximab群で12例(KRAS変異5例、NRAS変異3例、BRAF変異4例)で認められた。すべての変異例を除外とした全RAS/RAF野生型でのOSのHRは1.64(95% CI: 0.92-2.93)であり、OS中央値は化学療法群not reached(47.5-not reached)、化学療法+Cetuximab群79.0ヵ月(29.9-not reached)であった。

 化学療法群の99例(77%)、化学療法+Cetuximab群の103例(80%)で12週間の術前化学療法を完遂し、化学療法群の59例(52%)、化学療法+Cetuximab群の62例(57%)で12週間の術後補助化学療法が完遂された。化学療法群では術前58例(45%)、術後49例(43%)、化学療法+Cetuximab群で術前60例(47%)、術後48例(44%)において投与量の調整が必要だった。化学療法群では術前65例(51%)、術後38例(34%)で、化学療法+Cetuximab群では術前63例(49%)、術後39例(36%)で投与の延期が必要であった。両群で14例(化学療法群6例[4%]、化学療法+Cetuximab群8例[6%])に毒性治療中止を認めた。

 Grade 3以上の毒性の発現した症例の割合は両群で差はなく、化学療法群では術前63例(47%)、術後26例(22%)、化学療法+Cetuximab群では術前72例(53%)、術後34例(30%)であった。化学療法群と化学療法+Cetuximab群でよく認められたGrade 3/4の有害事象は好中球減少(19% vs. 15%)、下痢(10% vs. 10%)、皮疹(1% vs. 16%)、血栓塞栓症(7% vs. 8%)、倦怠感(7% vs. 7%)、口内炎(2% vs. 10%)、嘔吐(5% vs. 5%)、末梢神経障害(6% vs. 4%)、疼痛(4% vs. 4%)であった。よく認められた重篤な有害事象は下痢(7% vs. 5%)、血栓塞栓症(7% vs. 5%)、嘔吐(5% vs. 4%)、発熱(4% vs. 2%)、敗血症(1% vs. 4%)、カテーテル関連感染症(1% vs. 4%)であった。

 薬剤関連の重篤な有害事象が化学療法群26例、化学療法+Cetuximab群32例に認められた。5例の治療関連死が報告されており、化学療法に関連しているのは化学療法群1例(心不全)、化学療法+Cetuximab群2例(肺塞栓症+間質性肺炎1例、肺塞栓症1例)であり、手術関連では化学療法+Cetuximab群で術後30日以内での気管支肺炎が1例認められ、化学療法群で90日以内の心停止が1例認められた。術後合併症は化学療法群28例(25%)、化学療法+Cetuximab群27例(25%)に認められた。

 本試験の中間報告においては、切除可能な肝転移を有する患者に対してCetuximabを周術期に加えることでPFSが有意に短くなることが報告されていた。本報告は最も重要なOSの結果を報告したものであり、OSも有意に短かった。

 以上から切除可能な肝転移を有する患者に対して、周術期化学療法にCetuximabを加えることで有意に予後が悪くなるため、Cetuximabは周術期化学療法に使用するべきではない。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 緒方 貴次



監訳者コメント:
切除可能な大腸癌肝転移にCetuximab併用周術期化学療法は選択されるべきではない

 切除可能な大腸癌肝転移に対する治療は、肝切除が標準治療だが、術後再発が60~70%と高率である。切除可能な大腸癌肝転移例に対して術前化学療法を行うメリットは、腫瘍縮小に伴う肝切除量の減少、切離端の確保、微小転移巣に対する早期治療介入、薬物療法の奏効性判定などが考えられる。しかしながらデメリットとして術前化学療法非奏効例において切除不能となるリスク4)、抗癌剤による肝障害および周術期合併症発生などの問題もある5)。切除可能大腸癌肝転移に対して、ESMOガイドラインにおいては、①FOLFOX療法による6ヵ月間の術後補助化学療法、もしくは、②周術期化学療法がその治療選択として記載されており6)、NCCNガイドラインにおいては、①術前化学療法を伴わない原発・肝転移巣切除、②術前化学療法(2~3ヵ月)後の外科的切除、③原発切除後の化学療法施行と転移巣切除、そしてこれらに引き続いての術後補助化学療法が治療戦略として記載されている7)。一方、本邦の「大腸癌治療ガイドライン2019年版」においては“切除可能肝転移に対する術前補助化学療法はその有効性と安全性が確立されておらず、「推奨度なし・エビデンスレベルC」”と判断されている8)

 New EPOC試験に関しては、すでに主要評価項目である無増悪生存期間において、Cetuximab併用群が有意に不良であり試験は途中中止となっていたが3)、今回最終解析においてもCetuximab併用群は生存期間を悪化させることが示唆された。加えて、抗EGFR抗体の効果予測因子とされているRAS/BRAF statusや原発占拠部位別などのsubgroup解析においてもCetuximabの化学療法への上乗せ効果を認めなかったことから、切除可能な大腸癌肝転移に対する治療戦略として、Cetuximabを併用した周術期化学療法は選択されるべきではないと考える。

 一方、肝切除後の術後補助化学療法はその再発抑制効果が示され、本邦のガイドラインにおいても“弱い推奨「推奨度2・エビデンスレベルB」”と位置付けられている8)。ASCO 2020において「肝転移根治切除例を対象としたmFOLFOX6療法と手術単独のランダム化比較試験(JCOG0603試験)」の結果発表が予定されており、本試験結果の解釈が今後、各ガイドラインや実臨床に与える影響が注目される。

監訳・コメント:関西医科大学附属病院 がんセンター 佐竹 悠良

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