GI-pedia|大腸癌のトピックに関するエビデンスや情報をまとめ、時系列などに整理して紹介します。

第1回 大腸癌化学療法の変遷(進行再発癌)

4. 切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法の変遷と治療方針
吉野 孝之

 大腸癌は、消化器癌のなかで比較的早い段階から殺細胞薬・分子標的治療薬ともに開発が進められていた分野である。かつて切除不能進行・再発大腸癌に対して、有効な化学療法が存在しなかった時代の生存期間は4〜6ヵ月に過ぎなかったが、1980年代の5-FU/LV療法の検討に始まり、1990年代にCPT-11、2000年代にL-OHPがそれぞれ臨床導入され、5-FU/LVにどちらかの薬物を組み合わせたレジメン(それぞれFOLFIRIFOLFOX)を行うことで、20〜21ヵ月という著明な生存期間の延長が達成されるようになった58)
  一方、2003年以降、大腸癌における分子標的治療薬の有効性が次々と報告されるようになり、従来の標準治療への上乗せによりさらなる治療成績の向上が得られ、生存期間は2年を超えるまでに至った。抗VEGF抗体のBevacizumabは、AVF2107g試験34)で米国の標準治療であったCPT-11ベースの化学療法に上乗せ効果を示したのに端を発し、FOLFIRIおよびFOLFOXにおける上乗せ効果も後の臨床試験で立証され19, 27)、切除不能進行・再発大腸癌の一次治療に必須と考えられるようになった。
 抗EGFR抗体のCetuximabは、当初二次治療以降で開発が始められ、BOND試験52)ではCPT-11耐性となった対象に、NCIC CTG CO.17試験49)では5-FU/LVおよびCPT-11、L-OHP 3剤に耐性となった対象に対して有効性を示した。一次治療としての開発も進められ、KRAS野生型を示す大腸癌に限局して使用される場合がある。
  一次治療として最適な分子標的薬が抗VEGF抗体か、抗EGFR抗体であるかは決着がついていない。現在進行中の臨床試験(CALGB/SWOG 80405試験59))の結果を待つ必要がある。しかし、開発の経過で重要なバイオマーカーの存在、すなわち負の治療効果予測因子としてのKRAS遺伝子変異が認識され、今後の臨床試験は効果の期待できるKRAS野生型症例で進められていくと考えられる。その他のバイオマーカーとして、BRAF、PI3CA、PTENなどの変異が提唱されているが、予測因子として確立したものはまだない。
  大腸癌診療における第三の分子標的治療薬として、Cetuximabと同じくEGFRを標的とする完全ヒトIgG2抗体であるPanitumumabが2010年4月に保険承認された。Cetuximabと同様に、5-FUおよびCPT-11、L-OHPの3剤耐性例に単剤で有効性を示した55)。その後の一次および二次治療の開発からも効果に関してはCetuximabと同等とされているが、完全ヒト由来であるため、ヒト-マウスキメラ抗体のCetuximabに比してinfusion reactionが少なく、かつ隔週投与が可能であることが特徴である。
 また、大腸癌ではこれら以外の分子標的治療薬の開発も進められており、特に従来の分子標的治療薬と異なった作用機序をもつもの、例えばVEGF trapのAfliberceptや抗 IGF-1R抗体のDalotuzumabなどが期待されており、今後の第III 相試験の結果が待たれる。
 大腸癌に有効な薬剤の承認の遅れから、エビデンス通りに薬剤を使えない状況が過去に存在した。そのため、国内の承認状況を考慮した『大腸癌治療ガイドライン』を参考にする機会が多かった。しかし、2010年に大腸癌にKRAS遺伝子検査が適応拡大され、またPanitumumabが製造承認されたことで、国内の大腸癌診療は欧米と同レベルに到達した。その結果、エビデンス通りにすべての薬剤が使える前提でつくられているNCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインと『大腸癌治療ガイドライン医師用2010年版』の切除不能進行再発大腸癌症例の化学療法の記載がほぼ同内容となった(図6)。それはすべてのエビデンスが海外で行われた大規模臨床試験に基づいているからであり、言い換えれば、国内においても海外データの外挿である化学療法がほぼ受け入れられたと言える。
 NCCNガイドラインは年4回の改訂を行っており、次回改訂を2013年に計画している本邦の『大腸癌治療ガイドライン』と異なる。そのため、NCCNガイドラインはその時点のstate-of-artを反映している。したがって、ドラッグラグがある場合は、国内の『大腸癌治療ガイドライン』に従った治療指針が優先されるが、ドラッグラグがなくかつ既承認薬の新しいエビデンスが報告された場合、逐次state-of-art を取り入れているNCCNガイドラインに沿った治療指針が参考になるであろう。

図6 大腸癌治療ガイドライン 2010年版
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