消化器癌治療の広場 GIcancer-net
2000年代に入り、大腸癌の領域にも癌の増殖・転移にかかわる特定の分子に標的を絞った分子標的治療が臨床導入され、既存の化学療法との併用によって、さらなる生存期間の延長および奏効率の向上が図られた。また、“バイオマーカーによる患者選択”という概念が現実のものとなり、personalized therapyという新たな時代の幕開けを迎えた。
血管内皮細胞増殖因子（VEGF: vascular endothelial growth factor）は多くの癌種で発現していることが知られており、さらにその高発現は腫瘍の浸潤や転移、再発および予後に関連する。Bevacizumab（アバスチン®）は、VEGFに対するキメラ型ヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、腫瘍血管新生を抑制することにより、腫瘍の増殖あるいは転移を抑制することが期待される。
Bevacizumabに起因する特徴的な薬物有害反応としては、出血（16.7%）、消化管穿孔（0.9%）、瘻孔（0.3%）、血栓塞栓症、高血圧性脳症（頻度不明）などが知られている44)。
Kabbinavarらは、Bevacizumabを併用した3つの無作為化比較試験のメタアナリシスにおいて、5-FU/LVまたはIFLに対し、5-FU/LV＋Bevacizumabは奏効率（5-FU/LV＋Bevacizumab vs. 5-FU/LV or IFL=34.1% vs. 24.5%, p=0.019）、PFS（各々8.8ヵ月 vs. 5.6ヵ月, HR=0.63, p=0.0001）、OS（各々17.9ヵ月 vs. 14.6ヵ月, HR=0.74, p=0.008）のいずれにおいても有意に上回ることを示した39)。5-FU/LV＋Bevacizumabは、CPT-11およびL-OHP不耐例に対する治療オプションと認識されている。
初回治療例を対象として、Capecitabine単剤とCapecitabine＋Bevacizumab（CB）、Capecitabine＋Bevacizumab＋Mitomycin Cを比較した第III相試験（MAX試験）において、CB群はCapecitabine単剤群に対し、OSでは有意差を認めなかったものの（CB vs. Capecitabine単剤=18.9ヵ月 vs. 18.9ヵ月, HR=0.88, p=0.31）、主要評価項目であるPFS（各々8.5ヵ月 vs. 5.7ヵ月, HR=0.63, p<0.001）で有意に上回り、Capecitabineに対するBevacizumabの上乗せ効果が示された。Capecitabine＋Bevacizumabは、5-FU/LV＋Bevacizumabと同様に、CPT-11およびL-OHP不耐例に対する治療オプションとして認識されている40)。
Hurwitzらは初回治療例を対象に、IFLをコントロールアームとして、IFL＋Bevacizumabと5-FU/LV＋Bevacizumabの無作為化比較試験を行った（AVF2107g試験）。中間解析において、IFL＋Bevacizumabの安全性が忍容可能であったことより、本試験はIFLとIFL＋Bevacizumabの2群間の比較試験として継続された。その結果、主要評価項目であるOS（IFL＋Bevacizumab vs. IFL=20.3ヵ月 vs. 15.6ヵ月, HR=0.66, p<0.001）およびPFS（各々10.6ヵ月 vs. 6.2ヵ月, HR=0.54, p<0.001）、奏効率（各々45% vs. 35%, p=0.004）のいずれにおいてもBevacizumab併用群が上回った。有害事象は、Bevacizumab併用群で高血圧の発生率が有意に多かったものの、その他については有意な差を認めなかった34)。
・NO 16966試験
（試験デザインについては2.2.3 XELOX参照）
Saltzらが報告したXELOX/FOLFOX＋BevacizumabとXELOX/FOLFOXの比較では、奏効率（各々47% vs. 49%, p=0.31）およびOS（各々21.3ヵ月 vs. 19.9ヵ月, HR=0.89, p=0.077）については有意差を認めなかったものの、主要評価項目であるPFSではBevacizumab併用群が有意に上回った（各々9.4ヵ月 vs. 8.0ヵ月, HR=0.83, p=0.0023）19)。
また、二次治療として、5-FUとCPT-11不応例を対象にFOLFOX±Bevacizumabの比較試験が行われた。主要評価項目であるOSでは、Bevacizumab併用群が有意に上回り（FOLFOX＋Bevacizumab vs. FOLFOX=12.9ヵ月 vs. 10.8ヵ月, HR=0.75, p=0.0011）、PFS（各々7.3ヵ月 vs. 4.7ヵ月, HR=0.61、p<0.0001）、奏効率（各々22.7% vs. 8.6%, p<0.0001）においてもBevacizumab併用群が上回った45)。
これらの結果より、一次および二次治療におけるFOLFOX/XELOXへのBevacizumab併用の有効性が示された。
・SOFT試験
SOXは、経口フッ化ピリミジン系製剤であるS-1とL-OHPを併用するレジメンである。初回治療における標準治療の1つであるmFOLFOX6＋Bevacizumab療法（FOLFOX群）に対するSOX＋Bevacizumab療法（SOX群）の非劣性を検証した無作為化第III相試験であるSOFT試験が本邦から報告された。
RECISTで定義されるPDは標的病変の最小長径和から20%以上の長径和増大であるが、本試験ではPFSのイベントとしてのPDを、ベースラインの標的病変の長径和から20%以上の増大と定義した。主要評価項目であるPFSの中央値は、観察期間中央値18.4ヵ月の時点でFOLFOX群11.5ヵ月、SOX群11.7ヵ月であり（HR=1.043, 95% CI: 0.860-1.266）、設定した非劣性マージン1.33を下回ったため、SOX療法のPFSにおける非劣性が示された78)。なお、この結果はRECISTに基づく評価でも同様であった。また、副次評価項目であるOS中央値も、それぞれ30.9ヵ月、29.6ヵ月であり（HR=1.052, 95% CI: 0.805-1.376）、両群間に差を認めなかった。奏効率は、FOLFOX群62.7%、SOX群61.5%（p=0.8026）、8週時点での奏効率はそれぞれ42.9％、40.3%（p=0.5669) 79)、最大腫瘍縮小割合はそれぞれ71.7%、72.3%（p=0.8944）、R0切除率はそれぞれ8.6%、9.4%（p=0.7678）78)と、両群間に差を認めなかった。
Grade 3以上の主な有害事象としてFOLFOX群で好中球数減少、SOX群で消化器毒性（粘膜炎、食欲不振、下痢）が多い傾向にあった。また、本試験においてはFOLFOX群で1例（0.4%）、SOX群で5例（2.0%）の消化管穿孔例を認めたが、明らかな腹膜転移を有する症例と高度の消化管狭窄を認める症例を除外することで以降の発生を回避することができた。
以上から、初回治療としてSOX＋Bevacizumabは治療選択肢の1つであると考えられる。
Fuchsらは、初回治療例を対象に、modified IFL（mIFL）＋BevacizumabとFOLFIRI＋Bevacizumabを比較した第II相試験（BICC-C試験 Period 2）を行い、奏効率（FOLFIRI＋Bevacizumab vs. mIFL＋Bevacizumab=57.9% vs. 53.3%）、PFS（各々11.2ヵ月 vs. 8.3ヵ月. p=0.28）においては有意差は認めなかったものの、OSはFOLFIRI＋Bevacizumabが上回ること（各々28.0ヵ月 vs. 19.2ヵ月, p=0.037）を報告した。
本報告より、Bevacizumabと併用する際の5-FU/LV＋CPT-11レジメンはFOLFIRIが最適であると認識されている27)。
・TRIBE試験
TRIBE試験では、初回治療におけるFOLFIRI＋BevacizumabとFOLFOXIRI＋Bevacizumabが比較された。FOLFOXIRI群の用量は、CPT-11: 165mg/m2、L-OHP: 85mg/m2、LV: 200mg/m2、5-FU ci: 3,200mg/m2、Bevacizumab: 5mg/kgであり、FOLFIRI群、FOLFOXIRI群ともに最大12サイクル投与した後、5-FU/LV＋Bevacizumabによる維持療法を行った。
観察期間中央値32.3ヵ月の時点で、PFS中央値はFOLFIRI群9.7ヵ月、FOLFOXIRI群12.1ヵ月と、FOLFOXIRI群で有意な延長を認めた（HR=0.77, 95% CI: 0.64-0.93, p=0.006）80)。また、OS中央値はそれぞれ25.8ヵ月、31.0ヵ月と、FOLFOXIRI群で良好な傾向を認めた（HR=0.83, 95% CI: 0.66-1.05, p=0.125）。遺伝子変異別のPFSのHRは、KRAS exon 2野生型/変異型で0.83/0.84、BRAF野生型/変異型で0.83/0.55と、遺伝子変異の有無にかかわらずFOLFOXIRI群の有効性が示唆され、とりわけ予後が不良なBRAF変異型における有効性が期待される結果であった。
奏効率はFOLFIRI群53%、FOLFOXIRI群65%とFOLFOXIRI群で有意に良好であったが（p=0.006）、肝限局転移例におけるconversion therapyの割合およびR0切除率は両群間で有意差を認めなかった。なお、早期腫瘍縮小と奏効の深さによる検討では、早期腫瘍縮小を得た症例では、得なかった症例と比較してPFSの延長を認め（p < 0.0001）、最大腫瘍縮小割合の中央値 (38.9%) を超える腫瘍縮小を得た症例は、中央値以下であった症例と比較してPFSの延長を認めた（p<0.0001）81)。
主なgrade 3以上の有害事象は、好中球数減少および末梢神経障害がFOLFOXIRI群で有意に多かったものの（ともにp<0.001）、発熱性好中球減少症は同程度で、その他の非血液毒性も両群間で差を認めず、忍容可能であると考えられた。
以上から、初回治療の、特にRAS変異を有し抗EGFR抗体薬の効果が期待できない症例においてFOLFOXIRI＋Bevacizumabは、OSの延長を期待し得る有望なレジメンであると考えられる。ただしOSの解析については観察期間が十分ではなく、2nd-line以降の影響によりPFSの差がOSにおいては維持できない可能性を念頭におく必要がある。
・BRiTE、ARIES（観察研究）
Bevacizumab併用化学療法による初回治療に不応となった後、二次治療でBevacizumabを継続して併用すること (bevacizumab beyond progression: BBP) の有用性は、BRiTEおよびARIESという2つの大規模観察研究によって示唆されていた。BRiTEにおけるOSはBBP群31.8ヵ月、非BBP群19.9ヵ月と、BBP群で生存期間が良好で、続いて報告されたARIESにおいてもOSはBBP群27.5ヵ月、非BBP群18.7ヵ月と、BRiTEの結果を支持する結果であった62, 63)。
ML18147試験はBBPの有効性を前向きに検証した無作為化比較第III相試験である。標準的なBevacizumab併用の初回治療不応例を対象に、二次治療におけるBevacizumab併用群（BBP群）と非併用群（非BBP群）を無作為化比較した（図7）。主要評価項目であるOSの中央値はBBP群 11.2ヵ月、非BBP群9.8ヵ月（HR=0.81, 95% CI: 0.69-0.94, p=0.0062）と、有意にBBP群が良好であった64)。副次評価項目では、奏効率に有意差を認めなかったものの（5.4% vs. 3.9%, p=0.3113）、PFSはBBP群で有意に延長した（5.7ヵ月 vs. 4.1ヵ月、HR=0.68, 95% CI: 0.59-0.78, p<0.0001）。サブグループ解析ではKRAS変異の有無についての情報が得られた症例を対象に、KRAS status別にBBPの効果が解析された。PFSはKRAS野生型においてBBP群6.4ヵ月、非BBP群4.5ヵ月（HR=0.61, 95% CI: 0.49-0.77, p<0.0001）、KRAS変異型においてBBP群5.5ヵ月、非BBP群4.1ヵ月（HR=0.70, 95% CI: 0.56-0.89, p=0.0027）と、KRAS statusによらずBBPによるPFSの延長効果が示されたが、OSはKRAS野生型では有意差を認めたものの（15.4ヵ月 vs. 11.1ヵ月, HR=0.69, p=0.0052)、KRAS変異型においては有意差を認めなかった（10.4ヵ月 vs. 10.0ヵ月, HR=0.92, p=0.4969）65)。また、ESMO 2012では年齢別の解析が発表され、OSは65歳未満においてBBP群11.6ヵ月、非BBP群9.9ヵ月（HR=0.79, 95% CI: 0.65-0.98, p=0.0274）、65歳以上ではBBP群10.7ヵ月、非BBP群9.8ヵ月（HR=0.83, 95% CI: 0.66-1.04, p=0.1056）と、年齢によらずBBP群で良好であった66)。
以上の結果より、BBPは標準的な治療戦略の1つと考えられ、NCCNガイドライン （2013年版、version1）にも掲載されるようになった67)。ただし、ML18147試験の対象は初回治療のPFSが3ヵ月以上であり、初回治療におけるBevacizumabが連続して3回以上投与され、かつBevacizumab最終投与後3ヵ月以内に増悪した症例が対象となっていることを念頭に置く必要がある。
2012年のESMOではイタリアよりML18147試験に相似したデザインの無作為化比較第II相試験 （BEBYP試験）の結果が報告された。この試験はML18147試験の公表および症例集積の遅れから試験が途中中止となったが、主要評価項目であるPFSはBBP群6.77ヵ月、非BBP群4.97ヵ月（HR=0.65, 95% CI: 0.48-0.89, p=0.0062）と、有意にBBP群が良好であった68)。なお、副次評価項目の奏効率はBBP群21%、非BBP群18%（p=0.71）と両群で差を認めず、OSは十分なイベント数に達していないため公表されなかった。
上皮細胞増殖因子受容体（EGFR: Epidermal growth factor receptor）は、上皮細胞などに発現する膜貫通型の受容体であり、リガンドが結合するとEGFRチロシンキナーゼが活性化され、細胞内シグナル伝達を介して細胞増殖や分化が促進される。Cetuximab（アービタックス®）は、EGFRに対するIgG1サブクラスのヒト/マウスキメラ型のモノクローナル抗体で、EGFRに結合することにより、細胞増殖や転移の抑制が期待される。
Cetuximabによる薬物有害反応として、重度のinfusion reaction（<5%）、重度の皮膚障害（10～15%）、間質性肺疾患（<0.5%）、低マグネシウム血症、下痢などが報告されている46)。
・メモ：抗EGFR抗体薬の抗腫瘍効果とEGFR発現
当初、抗EGFR抗体薬はその作用機序より、免疫組織化学染色（IHC）でEGFRを発現している大腸癌を対象に開発されてきたが、その後の解析により、IHCによるEGFR発現の程度（EGFR細胞膜染色の割合、EGFR細胞膜染色強度）と抗EGFR抗体薬の抗腫瘍効果には明らかな相関を認めないとの報告47, 48)がなされ、IHCによるEGFR発現の有無は抗EGFR抗体を使用する際に考慮しなくてよいと考えられるようになっている。
・メモ：抗EGFR抗体薬の抗腫瘍効果とKRAS遺伝子
EGFR細胞内シグナル伝達経路の1つであるKRAS/RAF/MAPK伝達経路において、KRAS遺伝子に点突然変異が起こると下流への恒常的なシグナル伝達が起こり、EGFR阻害による抗腫瘍効果が無効になると考えられている。抗EGFR抗体薬を用いた多数の臨床試験の解析からも同様の報告が行われ、現在、KRAS遺伝子変異を有する症例に対する抗EGFR抗体薬の投与は推奨されていない。
NCI CTG CO.17試験では、フッ化ピリミジンおよびCPT-11、L-OHPに不応となった症例に対し、BSCとの比較で主要評価項目であるOS（Cetuximab vs. BSC=6.1ヵ月 vs. 4.6ヵ月, HR=0.77, p=0.005）、およびPFS（各々1.9ヵ月 vs. 1.8ヵ月, HR=0.68, p<0.001）、奏効率（各々8% vs. 0%, p<0.001）において有意に上回り、大腸癌におけるCetuximab単剤投与の有効性が示された49)。
その後、KRAS遺伝子変異有無別のレトロスペクティブな解析が行われ、KRAS野生型ではOSは各々9.5ヵ月 vs. 4.8ヵ月（HR=0.55, p<0.001）、PFSは各々3.7ヵ月 vs. 1.9ヵ月（HR=0.40, p<0.001）、奏効率は12.8% vs. 0%と有効性が示された。一方、KRAS遺伝子変異型ではOSは各々4.5ヵ月 vs. 4.6ヵ月（HR=0.98, p=0.89）、PFSは各々1.8ヵ月 vs. 1.8ヵ月（HR=0.99, p=0.96）、奏効率は1.2% vs. 0%と有効性を認めなかった50)。
有害事象については、皮疹、低マグネシウム血症等の頻度がCetuximab群で有意に多かった49)。
EPIC試験では、5-FU、L-OHP不応例に対するCPT-11へのCetuximabの上乗せ効果が検討された。その結果、PFSではCPT-11＋Cetuximab群が有意に上回ったものの（CPT-11＋Cetuximab vs. CPT-11=4.0ヵ月 vs. 2.6ヵ月, HR=0.69, p≤0.0001）、主要評価項目であるOSについては両治療群間で差がつかなかった（各々10.7ヵ月 vs. 10.0ヵ月, HR=0.98, p=0.71）。これは、CPT-11単独群の約47%で後治療としてCetuximabが使用されたことによると考えられている51)。
本結果より、生存期間の観点からはCetuximabの導入時期は二次治療、三次治療のいずれでもよいと考えられている。
BOND試験では、CPT-11不応例に対するCPT-11＋CetuximabとCetuximab単剤が比較された。OSでは有意差を認めないものの、CPT-11併用群で良好な傾向を認め（CPT-11＋Cetuximab vs. CPT-11=8.6ヵ月 vs. 6.9ヵ月, HR=0.91, p=0.48）、主要評価項目である奏効率（各々23% vs. 11%, p=0.007）およびTTP（各々4.1ヵ月 vs. 1.5ヵ月, HR=0.54, p<0.001）においてCPT-11併用群が有意に上回った。その結果、CPT-11不応例に対してもCPT-11＋CetuximabがCetuximab単剤よりも有効であることが示され52)、CPT-11不耐例でなければCPT-11を併用することが推奨されている。
・CRYSTAL試験
CRYSTAL試験では、初回治療を対象にFOLFIRIに対するCetuximabの上乗せ効果が検討された。KRAS遺伝子変異例を含む全体では、OSにおいては有意差がなかったものの（FOLFIRI＋Cetuximab vs. FOLFIRI=19.9ヵ月 vs. 18.6ヵ月, HR=0.93, p=0.31）、主要評価項目であるPFSは、Cetuximab併用群が有意に良好であった（各々8.9ヵ月 vs. 8.0ヵ月, HR=0.85, p=0.048）。
その後、KRAS遺伝子変異有無別のレトロスペクティブな解析が行われ、KRAS野生型ではPFS（各々9.9ヵ月 vs. 8.7ヵ月, HR=0.68, p=0.02）、OS（各々24.9ヵ月 vs. 21.0ヵ月, HR=0.84）、奏効率（各々59% vs. 43%, オッズ比1.91）のすべての抗腫瘍効果で有意にCetuximab併用群が上回ったが、KRAS遺伝子変異型ではPFS（各々7.6ヵ月 vs. 8.1ヵ月, HR=1.07, p=0.75）、OS（各々17.5ヵ月 vs. 17.7ヵ月, HR=1.03）、奏効率（各々36% vs. 40%, オッズ比0.80）とCetuximabの上乗せ効果は示せなかった53)。この結果より、KRAS遺伝子野生型の初回治療例に対するCetuximabの上乗せ効果が示された。
・FIRE-3試験
FIRE-3試験では、初回化学療法において、FOLFIRI療法をベースとしてCetuximabとBevacizumabが直接比較された。試験開始時にはKRAS statusによらず登録が行われたが、後にKRAS exon 2野生型に限定して登録され、主解析の対象となっている。
主要評価項目である奏効率は、Cetuximab群62.0%、Bevacizumab群58.0%で、両群間に有意差を認めなかった（odds ratio=1.18, 95% CI: 0.85-1.64, p=0.183）82)。また、PFS中央値はそれぞれ10.0ヵ月、10.3ヵ月と同程度であったものの（HR=1.06, 95% CI: 0.88-1.26, p=0.547）、OS中央値はそれぞれ28.7ヵ月、25.0ヵ月と、Cetuximab群で有意な延長を認めた（HR=0.77, 95% CI: 0.62-0.96, p=0.017）。なお、KRAS exon 2以外のRAS遺伝子変異、すなわちKRAS exon 3, 4、NRAS exon 2, 3, 4全てに変異を有さない症例（RAS野生型）を対象とすると、OS中央値はCetuximab群33.1ヵ月、Bevacizumab群25.6ヵ月と、両群の差はより大きくなった（HR=0.70, 95% CI: 0.53-0.92, p=0.011）83)。逆に、KRAS exon 2野生型かつRAS変異型においては、Cetuximab群でPFSが有意に短く（HR=2.22, p=0.004）、OSも短い傾向がみられた（HR=1.20, p=0.57）。
Grade 3以上の主な有害事象として、Cetuximab群で皮膚障害（手足症候群、ざ瘡様皮疹）や低マグネシウム血症、infusion reactionをより多く認めたものの82)、許容される範囲内と考えられた。他の有害事象については両群で差を認めなかった。
奏効率やPFSで差がつかず、OSでのみ有意差がついた理由は明確ではないが、PEAK試験の結果と合わせ、RAS野生型の初回治療において抗EGFR抗体薬併用療法がBevacizumab併用療法よりもOSの延長に寄与する可能性が示唆された。ただし、OSは本試験の主要評価項目ではないこと、Bevacizumab併用群でBBP（bevacizumab beyond progression）が行われた症例が少ないことなど、現時点で抗EGFR抗体薬の優越性が明確であるとは言い切れない。今後、報告される予定の同様のコンセプトであるCALGB80405試験の結果を踏まえ、議論を行うべきであろう。またPEAK試験、PRIME試験の追加解析結果と合わせ、抗EGFR抗体薬の使用はRAS野生型に絞るべきと考えられるが、本邦において前述のRAS検査は保険適応外であり（2013年11月現在）、レジメン選択の障壁となっている。
・OPUS試験
OPUS試験（第II相試験）では、初回治療例に対するFOLFOX単独とCetuximab併用が比較された。KRAS野生型では、OSにおいては有意差を認めなかったものの（FOLFOX＋Cetuximab vs. FOLFOX=22.8ヵ月 vs. 18.5ヵ月, HR=0.855, p=0.385）、主要評価項目である奏効率（各々57.3% vs. 34.0%, p=0.0027）およびPFS（各々8.3ヵ月 vs. 7.2ヵ月, HR=0.567, p=0.0064）においてCetuximab併用群が有意に上回った。
一方、KRAS変異型では奏効率（各々34% vs. 53%, p=0.029）、PFS（各々 5.5ヵ月 vs. 8.6ヵ月, HR=1.72, p=0.0153）、OS（各々13.4ヵ月 vs. 17.5ヵ月, HR=1.29, p=0.2004）とCetuximab併用群が下回る傾向であった42)。
初回治療におけるFOLFOX / XELOXに対するCetuximabのOSにおける上乗せを検証した試験がCOIN試験である。KRAS野生型において、奏効率はCetuximab併用群64%、化学療法単独群57%（p=0.049）とCetuximab併用による上乗せを認めたものの、主要評価項目であるOSは各々17.0ヵ月 vs. 17.9ヵ月（HR=1.04, 95% CI: 0.87-1.23, p=0.67）と、Cetuximab併用による優越性を示すことができなかった。またPFSにおいても各々8.6ヵ月 vs. 8.6ヵ月（HR=0.96, 95% CI: 0.82-1.12, p=0.60）と有意差を認めなかった69)。なお、サブ解析ではKRAS野生型のFOLFOX併用かつ転移部数1以下の症例においてのみ、Cetuximabの上乗せ効果が認められた（HR=0.55, 95% CI: 0.35-0.87）。
NORDIC VII試験は、北欧において使用されているFLOXレジメンをベースとして、初回治療においてFLOX＋Cetuximab、FLOX間欠投与＋Cetuximab維持療法、FLOX単独の3群無作為化比較試験として行われた。主要評価項目であるPFSは、各々8.3ヵ月 vs. 7.3ヵ月 vs. 7.9ヵ月であり、FLOX単独群とFLOX＋Cetuximab群との間に有意差は認められなかった（HR=0.89, p=0.31）70)。KRAS野生型およびKRAS野生型かつBRAF野生型の症例においても、Cetuximab併用によるPFS延長効果は認められなかった。一方、KRAS変異型におけるPFSは、FLOX＋Cetuximab群9.2ヵ月、FLOX群7.8ヵ月（HR=0.71, p=0.07）と、FLOX＋Cetuximab群で良好な傾向がみられた。また、OSにおいても、KRAS野生型、KRAS野生型かつBRAF野生型、KRAS変異型の各グループで治療レジメンによる差を認めなかった。
OPUS試験の結果が報告された後、NCCNガイドラインではKRAS野生型における初回治療の1つとしてFOLFOX＋Cetuximabが掲載されていたが、その後の2つの第III相試験（COIN、NORDIC VII）でフッ化ピリミジン系製剤＋L-OHP併用療法に対するCetuximabの上乗せ効果を示すことができなかったため、NCCNガイドラインの2011年version 3.2012以降、FOLFOX＋Cetuximabは削除された。
これら2つの第III相試験でCetuximabの有用性を示せなかった原因は明らかではないが、COIN試験におけるPFSに関するサブ解析においてOPUS試験と同様にFOLFOXに対してはCetuximabの上乗せ効果を認めていることより69)、XELOXにおけるCapecitabineやFLOXにおける5-FU/LV急速静注など、併用するフッ化ピリミジン系製剤との相互作用に問題があった可能性も指摘されている。
Panitumumab（ベクティビックス®）はEGFRに対するヒト型IgG2モノクローナル抗体であり、Cetuximab同様EGFRに結合することにより、腫瘍増殖および転移抑制が期待される。Cetuximabがキメラ型の抗体であり、infusion reaction予防のために抗ヒスタミン薬の前投与を要するのに対し、Panitumumabは完全ヒト型抗体であることからinfusion reactionの頻度が少なく（Grade 3以上 <1%）54)、前投薬の規定はない。また、投薬間隔はCetuximabが毎週投与であるのに対し、Panitumumabは隔週投与である。
薬物有害反応として、infusion reactionのほか、皮膚障害、間質性肺疾患、下痢など、Cetuximabと概ね同様の報告がなされている。
・20020408試験
5-FU、CPT-11、L-OHPに不応となった症例に対し、BSCとの比較試験（20020408試験）が行われ、主要評価項目であるPFSの延長（Panitumumab vs. BSC=8週 vs. 7.3週, HR=0.54, p<0.0001）を認め、奏効率においても有意に上回った（各々10% vs. 0%、p<0.0001）。OSは両群間で差がなかったが（HR=1.00, p=0.81）、BSC群の76%の患者が本試験と並行して行われていたPanitumumab単剤投与の第II相試験に登録され、Panitumumabが使用された結果と考えられている55)。
その後KRAS変異の有無による解析がなされ、BSCとの比較においてKRAS野生型では奏効率17%、PFS（Panitumumab vs. BSC=12.3週 vs. 7.3週, HR=0.45, p<0.0001）で上回ったが、KRAS変異型ではPFS（Panitumumab vs. BSC=7.4週 vs. 7.3週, HR=0.99）とBSCと同程度で、奏効例は認めなかった56)。
・ASPECCT試験
20020408試験ではBSC群の76%でPanitumumabが投与されたことからOSに有意差を認めなかったため、NCI CTG CO.17試験でOSに有意差を認めたCetuximabに対してPanitumumabの非劣性を検証する第III相試験、ASPECCT試験が行われた。
フッ化ピリミジン、L-OHP、CPT-11に不応で、かつ抗EGFR抗体薬の使用歴のないKRAS exon 2野生型の症例を対象とし、主要評価項目であるOS中央値は、Cetuximab群10.0ヵ月、Panitumumab群10.4ヵ月で（HR=0.97, 95% CI: 0.84-1.11, 非劣性検定p=0.0007, retention rate=1.06）、Cetuximabに対するPanitumumab群の非劣性が示された84)。また、PFS中央値はそれぞれ4.1ヵ月、4.4ヵ月（HR=1.002, 95% CI: 0.882-1.138）、奏効率はそれぞれ22.0%、19.8%であり、両群間に差を認めなかった。なお、後治療の施行率やその内容も類似していた。
主な有害事象は両群で概ね同程度であったが、低マグネシウム血症はPanitumumab群28.8%、Cetuximab群18.9%とPanitumumab群で多く、infusion reactionはそれぞれ2.8%、12.5%とCetuximab群で多い傾向にあった。
以上より、フッ化ピリミジン、L-OHP、CPT-11による治療歴のあるKRAS exon 2野生型におけるPanitumumab単剤は、Cetuximab単剤と同程度の抗腫瘍効果を有し、毒性プロファイルも類似していた。
・PRIME試験
PRIME試験では、初回治療例におけるFOLFOXに対するPanitumumabの上乗せ効果が検討された。
KRAS野生型において、奏効率（FOLFOX＋Panitumumab vs. FOLFOX=55% vs. 48%, p=0.07）、OS（各々23.9ヵ月 vs. 19.7ヵ月, HR=0.83, p=0.07）では有意差を認めなかったもののPanitumumab併用群で良好な傾向にあり、主要評価項目であるPFSは、Panitumumab併用群で有意にFOLFOX単独群を上回った（各々 9.6ヵ月 vs. 8.0ヵ月, HR=0.80, p=0.02）。
一方、KRAS変異型ではPFS（各々7.3ヵ月 vs. 8.8ヵ月, HR=1.29, p=0.02）、OS（各々15.5ヵ月 vs. 19.3ヵ月, HR=1.24, p=0.07）、奏効率（各々40% vs. 40%, p=0.98）と、Panitumumab併用群が下回る傾向にあった43)。この結果から、KRAS野生型の一次治療におけるPanitumumabの有効性が示された。
なお、2011年米国臨床腫瘍学会年次集会にてPRIME試験の最終報告として登録終了30ヵ月後における解析結果が報告された。PFSはFOLFOX＋Panitumumab群10.0ヵ月、FOLFOX群8.6ヵ月（HR=0.80, 95% CI: 0.67-0.95, p=0.01）、奏効率は各々57% vs. 48%（p=0.02）とPanitumumab併用群が有意に良好であったが、OSについては初回報告と同様、各々23.9ヵ月 vs. 19.7ヵ月（HR=0.88, 95% CI: 0.73-1.06, p=0.17）と、Panitumumab併用群で良好な傾向であるものの有意差は認めなかった71)。また、KRAS変異型においても初回報告と同様、Panitumumab併用群でPFSはともに下回る傾向にあった（HR=1.27, 95% CI: 1.04-1.55, p=0.02）、OSも短い傾向にあった（HR=1.17, 95% CI: 0.95-1.45, p=0.15）。
2013年米国臨床腫瘍学会年次集会では、探索的解析としてイベント発生率82%時点におけるOS解析が報告された。KRAS exon 2野生型におけるOS中央値はFOLFOX4群19.4ヵ月、Panitumumab併用群23.8ヵ月であり、Panitumumab併用群が有意に上回った（HR=0.83, 95% CI: 0.70-0.98, p=0.027）85)。一方KRAS exon 2変異型においては前回の報告と同様、Panitumumab併用群が下回る傾向にあった（HR=1.16, 95% CI: 0.94-1.41, p=0.162）。
また、事前に計画されていた探索的バイオマーカー研究として、KRAS exon 3, 4、NRAS exon 2, 3, 4変異の有無によるRAS解析が報告され、最新のOS解析時点におけるRAS解析の結果もESMO 2013で報告された。これらRAS遺伝子の変異は90%の症例で解析可能であり、KRAS exon 2野生型のうち17%に他のいずれかのRAS変異を認めた86)。全てのRASに変異を認めないRAS野生型におけるPFSのHR=0.72（KRAS exon 2野生型のHR=0.80）、OSのHR=0.77（KRAS exon 2野生型のHR=0.83）87)であり、RAS野生型でPanitumumab併用の効果がより高いことが示された。一方、いずれかのRAS変異を有する患者群においては、PFSのHR=1.31（p=0.008）86)、OSのHR=1.21（p=0.040）87)で、有意にPanitumumab併用群が劣っていた。
このRAS解析による検討において、PanitumumabはRAS野性型でのみその効果を享受できることが示された。Panitumumabの使用においては全てのRAS検査が求められると考えられる。
・PEAK試験
PEAK試験は、KRAS exon 2野生型の初回治療例において、FOLFOX＋PanitumumabとFOLFOX＋Bevacizumabを比較した無作為化第II相試験である。初回報告ではPanitumumab群142例、Bevacizumab群143例がITT解析の対象であり、主要評価項目であるPFSはPanitumumab群10.9ヵ月、Bevacizumab群10.1ヵ月で、両群間に有意差を認めなかった（HR=0.87, 95% CI: 0.65-1.17, p=0.35）88)。また、奏効率はそれぞれ58%、54%、有害事象による治療中止はそれぞれ24%、27%と、いずれも両群で同等であった。一方OSは、Panitumumab群では中央値未到達、Bevacizumab群25.4ヵ月であり、有意差はないもののPanitumumab群で良好な傾向であった（HR=0.72, 95% CI: 0.47-1.11, p=0.14）。
その後、事前に計画されていたKRAS exon 3, 4、NRAS exon 2, 3, 4、BRAF exon 15による追加解析およびOSのupdateが報告された。ITT解析集団の80%で遺伝子解析が行われ、Panitumumab群88例、Bevacizumab群82例が、KRAS、NRASのいずれの変異も有さないRAS野生型として追加解析対象となった。RAS野生型におけるPFS中央値は、Panitumumab群13.0ヵ月、Bevacizumab群10.1ヵ月で、Panitumumab群で有意な延長を認めた（HR=0.66, 95% CI: 0.46-0.95, p=0.03）89)。また、OS中央値もそれぞれ41.3ヵ月、28.9ヵ月と、Panitumumab群で良好な傾向であった（HR=0.63, 95% CI: 0.39-1.02, p=0.06）。なお、2nd-lineにおけるPanitumumab群の抗VEGF製剤による治療率、Bevacizumab群の抗EGFR抗体薬による治療率は、ともに40%程度であった。
以上、本試験は事前の仮説設定がなかったことが指摘されるものの、初回治療としてのFOLFOX＋Panitumumabは、対象をRAS野生型に限定することで、FOLFOX＋Bevacizumabよりも有効である可能性が示唆された。
・20050181試験
20050181試験では、二次治療例におけるFOLFIRIに対するPanitumumabの上乗せ効果が検討された。
KRAS野生型では、OSにおいては有意差を認めなかったものの（FOLFIRI＋Panitumumab vs. FOLFIRI=14.5ヵ月 vs. 12.5ヵ月, HR=0.85, p=0.12）、主要評価項目の1つであるPFS（各々5.9ヵ月 vs. 3.9ヵ月, HR=0.73, p=0.004）および奏効率（各々35% vs. 10%, p<0.001）において、Panitumumab併用群が有意にFOLFIRI単独群を上回った。一方、KRAS変異型では、PFS、OS、奏効率のいずれにおいても、Panitumumab併用による効果の上乗せは認められなかった57)。
本結果より、KRAS野生型の二次治療におけるPanitumumabの有効性が示された。
なお、2012年米国臨床腫瘍学会年次集会において本試験の最終登録30ヵ月後の解析が報告された。KRAS野生型におけるPFSはFOLFIRI＋Panitumumab群6.7ヵ月、FOLFIRI単独群4.9ヵ月（HR=0.82, 95% CI: 0.69-0.97, p=0.023）、奏効率は各々36.0% vs. 9.8%（オッズ比5.50, 95% CI: 3.32-8.87, p<0.0001）と、Panitumumab併用群が有意に上回った72)。OSは各々14.5ヵ月 vs. 12.5ヵ月（HR=0.92, 95% CI: 0.78-1.10, p=0.366）とPanitumumab併用群で長い傾向にあったものの有意差は認められなかった。Grade 3/4の有害事象についても皮膚障害 （各々37% vs. 2%）や下痢（各々14% vs. 9%）等、Panitumumab併用群で多く認められたが、長期観察による明らかな有害事象の増加は認めなかった。また、KRAS変異型においてはOS、PFS、奏効率とも同程度であった。
・SPIRITT試験
SPIRITT試験は、KRAS exon 2野生型でBevacizumabとL-OHPベースの併用療法に不応となった症例を対象に、2nd-lineにおいてFOLFIRI＋PanitumumabとFOLFIRI＋Bevacizumabを比較した無作為化第II相試験である。主要評価項目であるPFS中央値は、Panitumumab群7.7ヵ月、Bevacizumab群9.2ヵ月（HR=1.01, 95% CI: 0.68-1.50）、OS中央値はそれぞれ18.0ヵ月、21.4ヵ月で（HR=1.06, 95% CI: 0.75-1.49）、ともに両群間に有意差を認めなかった90)。なお、奏効率はそれぞれ32%、19%と、Panitumumab群で良好であった。
Grade 3/4の有害事象はPanitumumab群78%、Bevacizumab群65%に認め、有害事象による治療中止は、それぞれ29%、25％と両群で同程度であった。抗EGFR抗体薬による後治療は、Panitumumab群26%、Bevacizumab群54%、抗VEGF製剤による後治療はそれぞれ20%、24%であった。
PEAK試験同様、本試験は仮説設定のない試験であったが、L-OHPおよびBevacizumab不応のKRAS exon 2野生型において、FOLFIRI + PanitumumabとFOLFIRI + BevacizumabのOSは同程度であった。
GERCOR試験はフッ化ピリミジン系製剤、L-OHP、CPT-11に不応となったKRAS野生型におけるCPT-11（180mg/m2）＋Panitumumab（6mg/kg）の有効性を検討した単アーム第II相試験である。主要評価項目は奏効率で、期待値を30%に設定した。中央判定によるKRAS遺伝子検査にて変異を認めなかった61例が解析対象となり、奏効率は32.8%（20/61例）、病勢コントロール率は68.9%（42/61例）であった73)。観察期間中央値16.8ヵ月の時点で、PFSは6.0ヵ月（95% CI: 4.6-7.9）、OSは14.5ヵ月（95% CI: 6.8-18.2）であった。
CPT-11不応例に対する抗EGFR抗体薬とCPT-11の併用については、先にBOND試験でCetuximab併用によるPFSの延長効果が示されていたが52)、Panitumumabについても同様な結果が示唆された。
PICCOLO試験は、フッ化ピリミジン系製剤による治療歴があり、CPT-11使用歴のない症例を対象に、CPT-11＋Panitumumab、CPT-11＋Ciclosporin、CPT-11単独の3群を比較した第III相試験である。2008年6月にプロトコールが改訂され、KRAS野生型におけるCPT-11単独とCPT-11＋Panitumumabを比較する設定に変更となった。
KRAS野生型460例が登録され、主要評価項目であるOSはCPT-11＋Panitumumab群10.4ヵ月、CPT-11単独群10.5ヵ月であり、有意差を認めなかった（HR=0.91, 95% CI: 0.73-1.14, p=0.44）74)。副次的評価項目であるPFSは、各々5.5ヵ月 vs. 4.7ヵ月（HR=0.78, 95% CI: 0.64-0.95, p=0.01）、奏効率は各々34% vs. 12%（p<0.0001）と、いずれもPanitumumab併用群で有意に良好であった。
また、本試験ではあらかじめKRAS以外のBRAF、PIK3CA、NRAS遺伝子の解析が予定されていた。すべての遺伝子が野生型の症例においてPanitumumab併用はPFSの延長を示したが（HR=0.70, p=0.01）、OSでは有意差を認めなかった（HR=0.86, p=0.32）。一方、いずれかの遺伝子に変異を有している症例ではCPT-11単独群でOSが有意に良好であり（HR=2.03, p<0.01）、既報と同様にBRAF、PIK3CA、NRAS遺伝子もPanitumumab使用におけるバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
Afliberceptは2種のVEGF受容体（VEGFR-1、VEGFR-2）の細胞外ドメインの一部をヒト免疫グロブリンG1（IgG1）のFc領域に融合させた組換え融合蛋白質である。作用機序としては、VEGF受容体リガンドであるVEGF-A、VEGF-Bおよび胎盤増殖因子（PlGF）に結合して腫瘍における血管新生と血管透過性を阻害することが考えられている。
VELOUR試験では、L-OHPベースの初回治療に不応となった症例を対象に、FOLFIRIに対するAfliberceptの上乗せ効果が検討された。主要評価項目のOSはFOLFIRI＋Aflibercept群13.5ヵ月、FOLFIRI単独群12.1ヶ月（HR=0.82, 95.34% CI: 0.71-0.94, p=0.0032）、副次評価項目のPFSは各々6.9ヵ月 vs. 4.7ヵ月（HR=0.76, 99.99% CI: 0.58-1.10, p=0.00007）、奏効率は各々19.8% vs. 11.1%（p=0.0001）といずれもAfliberceptによる上乗せ効果が認められた75)。
以上の結果より、2012年8月に米国FDAで承認され、NCCNガイドライン（2013年版version1）においても推奨される治療法の1つとして掲載されている（2012年12月時点で本邦未承認）67)。
また、事前に予定されていた前治療におけるBevacizumab投与の有無によるAfliberceptの効果についても解析が行われ、Bevacizumab使用歴のある症例におけるOSは各々12.5ヵ月 vs. 11.7ヵ月（HR=0.862, 95.34% CI: 0.673-1.104）、Bevacizumab使用歴のない症例においては、各々13.9ヵ月 vs. 12.4ヵ月（HR=0.788, 95.34% CI: 0.699-0.927）であり、Bevacizumab投与歴の有無による交互作用は認めなかった（p=0.57）。
Grade 3/4の有害事象は下痢、倦怠感、口内炎、感染、高血圧、腹痛、好中球減少、蛋白尿がAflibercept併用群で多く認められ、有害事象に伴う治療中止例はAflibercept併用群で26.6%、FOLFIRI単独群で12.1%とAflibercept併用群で多い傾向にあった。
Regorafenibは腫瘍の増殖・生存、血管新生に関与するVEGFR、KIT、RET、FGFR、PDGFRなどを標的とする経口マルチキナーゼ阻害剤である。
CORRECT試験では、標準化学療法、すなわちフッ化ピリミジン系製剤、L-OHP、CPT-11、Bevacizumab、KRAS野生型における抗EGFR抗体薬に不応となった症例を対象に、Regorafenibの有用性が検討された。主要評価項目であるOSは、事前に規定された中間解析の時点で、Regorafenib群6.4ヵ月、placebo群5.0ヵ月（HR=0.77, 95% CI: 0.64-0.94, p=0.0052）とRegorafenib群が有意に上回り、有効中止となった76)。副次的評価項目であるPFSにおいても各々1.9ヵ月 vs. 1.7ヵ月（HR=0.525, 95% CI: 0.42-0.58, p<0.000001）とRegorafenib群で有意に良好であった。有害事象は、Regorafenib群でgrade 3以上の皮膚障害、肝機能障害、疲労等が多く認められた。
また、KRAS変異の有無によるサブグループ解析も報告され、KRAS野生型におけるOSは各々7.3ヵ月 vs. 5.0ヵ月（HR=0.653, 95% CI: 0.476-0.895）、KRAS変異型におけるOSは各々6.2ヵ月 vs. 5.1ヵ月（HR=0.867, 95% CI: 0.670-1.123）とKRAS変異の有無にかかわらずRegorafenib群で良好であった。
以上の結果より、2012年9月に米国FDAで承認。NCCNガイドライン（2013年版version1）においても推奨される治療法の1つとして掲載された67)。また、本邦でも2013年3月25日に承認を取得した。
なお、ESMO 2012では生存期間のup dateが報告され、それぞれの試験群のOSは6.4ヵ月 vs. 5.0ヵ月（HR=0.79, 95% CI: 0.66-0.94, p=0.0038) と、2012年米国臨床腫瘍学会年次集会での中間報告と同様の結果であった77）。
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