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3月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

固形癌

進行腎細胞癌、子宮体癌、その他の固形癌を有する患者に対するLenvatinibとPembrolizumabの併用療法を検討した第IB/II相試験


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Taylor MH, et al.: J Clin Oncol. 38(11): 1154-1163, 2020

 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は固形癌において血管新生を制御しており、化学療法における重要な治療標的である。VEGFは制御性T細胞や骨髄由来抑制細胞といった免疫抑制細胞の増殖を促進することにより、免疫抑制に影響を及ぼしている。VEGFはエフェクターT細胞の発生、腫瘍への腫瘍関連マクロファージの動員、樹状細胞の成熟と活性化を抑制する。その結果、腫瘍抗原の提示が不十分となり、T細胞によって調整される腫瘍抗原に対する免疫反応の惹起が障害される1-3)

 これまでの前臨床および臨床試験で、血管新生を阻害することでVEGFによる免疫抑制の状態を変化させると免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が潜在的に増強する可能性が示唆されてきた3-5)。Lenvatinibはマルチキナーゼ阻害薬であり、VEGF受容体1-3、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体1-4、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体α、RET、KITを阻害する6-8)。注目すべきはFGFのupregulationはVEGF阻害に対する抵抗機序とされている点であり9,10)、VEGFとFGFのシグナルを同時に阻害することがLenvatinibの治療効果に寄与している可能性がある11)。マウス腫瘍モデルでの研究では、Lenvatinibと抗PD-1抗体を併用する治療はそれぞれを個別に単剤で投与する場合と比較し優れた抗腫瘍効果を示している4,5,12)

 本試験は第IB/II相試験で多施設共同非盲検化試験であり、進行腎細胞癌、子宮体癌、悪性黒色種、頭頸部扁平上皮癌、非小細胞肺癌、尿路上皮癌を有する患者におけるLenvatinibとPembrolizumabの併用療法の安全性、忍容性、抗腫瘍活性について評価した。

 本試験の第IB相における主要な適格基準は、組織学的もしくは細胞学的に転移性の腎細胞癌、子宮体癌、悪性黒色種、頭頸部扁平上皮癌、非小細胞肺癌、尿路上皮癌と診断されていること、標準治療の後に病勢が増悪もしくは標準治療が施行できないこと、であった。第IB相パートにおいては前治療の数に制限は設けなかった。第II相試験における主要な適格基準としては、18歳以上、irRECISTに基づく測定可能病変を有すること、全身治療としての前治療は2次治療までであること、ECOG PS 0または1、血圧≦150/90mmHg、骨髄・肝・腎機能が維持されていること、などであった。マイクロサテライト不安定性やPD-L1発現を含むバイオマーカーによる患者の選別は行わなかった。主要な除外基準は試験治療薬の初回投与前28日以内に前治療が施行されていること、有意な心血管障害があること、有害事象から回復不十分であること、大手術による合併症があること、Lenvatinibによる前治療歴があること、などとされた。

 第IB相においては「最大耐量、第II相における推奨用量の同定」を目的とした。第II相で患者は、第II相における推奨用量と決定されたLenvatinib 20mg/日(1日1回、毎日内服)とPembrolizumab 200mg/body(day1、3週毎)の併用療法を施行された。第II相試験の主要評価項目は治療開始24週時点での客観的奏効割合(ORR week24)とされ、副次評価項目は時期を問わない客観的奏効割合(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、奏効持続期間(DOR)とされた。

 第IB相においては約10~30例の患者の登録を要した。第II相においては、腫瘍別のコホート毎にまず10例の患者を登録し、その10例で観察された治療効果と安全性の結果に基づき各コホートにつき最大20例の患者の追加を可能とした。奏効割合の点推定値とその両側95%信頼区間(CI)の計算にClopper-Pearson法、PFSとDORとそれぞれの両側95% CIの計算にKaplan-Meier法を用いた。

 2015年7月31日から2018年3月1日にかけて、米国の7施設において137例の患者が登録された。30例(22%)は腎細胞癌、23例(17%)は子宮体癌、22例(16%)は頭頸部扁平上皮癌、21例(15%)は悪性黒色種、21例(15%)は非小細胞肺癌、20例(15%)は尿路上皮癌であった。全体の75%の症例は、本試験の登録以前に化学療法を1レジメン以上投与されていた。

 第IB相においてLenvatinib 24mg/日とPembrolizumab 200mg/bodyを施行した3症例(腎細胞癌2例、非小細胞肺癌1例)において、用量制限毒性としてgrade 3の関節痛、grade 3の倦怠感を認めた。Lenvatinibを20mg/日に減量したコホートの10例については用量制限毒性を認めず、Lenvatinib 20mg/日の内服とPembrolizumab 200mg/bodyの3週毎の静注が最大耐量、かつ第II相における推奨用量とされた。

 ORR week24は、腎細胞癌では63%(19/30、95% CI: 43.9~80.1%)、子宮体癌では52%(12/23、95% CI: 30.6~73.2%)、悪性黒色種では48%(10/21、95% CI: 25.7~70.2%)、頭頸部扁平上皮癌では36%(8/22、95% CI: 17.2~59.3%)、非小細胞肺癌では33%(7/21、95% CI: 14.6~57.0%)、尿路上皮癌では25%(5/20、95% CI: 8.7~49.1%)であった。

 副次評価項目であるORRは腎細胞癌で70%(21/30、95% CI: 50.6~85.3%)、子宮体癌で52%(12/23、95% CI: 30.6~73.2%)、悪性黒色腫で48%(10/21、95% CI: 25.7~70.2%)、頭頸部扁平上皮癌で46%(10/22、95% CI: 24.4~67.8%)、非小細胞肺癌で33%(7/21、95% CI: 14.6~57.0%)、尿路上皮癌で25%(5/20、95% CI: 8.7~49.1%)であった。全コホートをまとめると、47%(65/137)の患者でCRもしくはPRを達成した。

 DORの中央値は、腎細胞癌で20.0ヵ月(95% CI: 9.0~22.9ヵ月)、悪性黒色腫で12.5ヵ月(95% CI: 2.7ヵ月~NE)、頭頸部扁平上皮癌で8.2ヵ月(95% CI: 2.2~12.6ヵ月)、非小細胞肺癌で10.9ヵ月(95% CI: 2.4ヵ月~NE)、子宮体癌および尿路上皮癌で未到達であった。

 PFSの中央値は、腎細胞癌で19.8ヵ月(95% CI: 9.9~24.1ヵ月)、子宮体癌で9.7ヵ月(95% CI: 4.2ヵ月~NE)、悪性黒色腫で5.5ヵ月(95% CI: 2.6~15.8ヵ月)、頭頸部扁平上皮癌で4.7ヵ月(95% CI: 4.0~9.8ヵ月)、非小細胞肺癌で5.9ヵ月(95% CI: 2.3~13.8ヵ月)、尿路上皮癌で5.4ヵ月(95% CI: 1.3ヵ月~NE)であった。

 第IB相、第II相パート合わせて、腎細胞癌の30%(9/30)、子宮体癌の30%(7/23)、悪性黒色腫の10%(2/21)、頭頸部扁平上皮癌の14%(3/22)、非小細胞肺癌の29%(6/21)、尿路上皮癌の15%(3/20)がデータカットオフ(2018年3月1日)の時点で治療を継続していた。残りの107例(78%)は治療を中止しており、63例(46%)は病勢進行、27例(20%)は有害事象が治療中止理由であった。

 治療関連有害事象は、倦怠感(58%)、下痢(52%)、高血圧(47%)、甲状腺機能低下症(42%)、食欲不振(39%)を多く認めた。Grade 3/4の治療関連有害事象は67%に認め、高血圧(20%)、倦怠感(12%)、下痢(9%)、蛋白尿(8%)、リパーゼ上昇(7%)などであった。

 治療関連有害事象により、Lenvatinibの減量・中断(85%)、Lenvatinibの中止(13%)、Pembrolizumabの中断(45%)、Pembrolizumabの中止(15%)が行われた。Lenvatinibの減量・中断の原因としては、倦怠感(26%)、下痢(23%)、高血圧(17%)、食欲不振(16%)、蛋白尿(11%)などであった。Pembrolizumabの中断の原因としては、倦怠感(10%)、下痢(7%)、食欲不振(5%)、呼吸困難(4%)、悪心(4%)などであった。

 事前に定義された免疫関連有害事象は52%(71/137)で発生し、そのうちgrade 3は8%、grade 4は2%であり、頻度の高いものは副腎機能低下症(1.5%)、大腸炎(1.5%)であった。同様にLenvatinibの治療関連有害事象は80%(110/137)で発生し、そのうちgrade 3が33%、grade 4が2%であり、頻度の高いものは高血圧(20%)、AST上昇(2%)、ALT上昇(2%)、手足症候群(2%)であった。

 登録患者21例の死亡が確認された。2例は治療関連死とみなされ、1例は非小細胞肺癌症例における肺出血、1例は尿路上皮癌症例における消化管出血であった。

 以上の結果より、Lenvatinib 20mg/日(1日1回、毎日内服)とPembrolizumab 200mg/body(day1、3週毎)の併用療法は、腎細胞癌、子宮体癌などの一部の固形癌において有望な治療であることが示された。本試験の結果を踏まえて、追加の臨床試験が胃癌、食道癌、分化型甲状腺癌、腎細胞癌、子宮体癌、悪性黒色腫、非小細胞肺癌において進行中であり、結果が期待される。


日本語要約原稿作成:九州医療センター 腫瘍内科 是石 咲耶



監訳者コメント:
IO+TKI:期待の併用療法に新時代の幕開けの予感

 本論文は、VEGFR阻害作用を有するLenvatinibが免疫調整作用により、免疫環境を整えてPembrolizumabの効果を最大限化するかという疑問に答えるべく種々の固形癌(腎細胞癌、子宮体癌、頭頸部扁平上皮癌、悪性黒色種、非小細胞肺癌、尿路上皮癌)を対象に実施された。

 結果としてはそれぞれの薬剤の単剤治療では得られないほどの抗腫瘍効果を認め、忍容可能な安全性のプロファイルも示した。本併用療法は現在、各癌種での開発が進んでおり、子宮体癌など一部の癌種ではFDAの早期承認が既に得られており、肝細胞癌ではブレイクスルーセラピーに指定されている。また組み合わせは異なるが腎細胞癌では複数の免疫療法薬(IO)+チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)療法が標準治療として位置づけられ、既に使用可能となっている。

 2020年のASCO-GIにおいては、本併用療法の進行胃癌を対象としたII相試験(EPOC1706)の結果が報告された13)。主要評価項目の奏効率は69%(95%信頼区間:49-85)、病勢コントロール率(DCR)100%という驚異の数字が記憶に新しい。同様にIOとVEGF阻害作用を有するTKIの併用療法は、IOの効果に乏しいとされる大腸癌でも一定の効果が報告されている。これらIO+TKI併用療法は現在III相試験へ展開中であり、その結果が期待されている。

監訳・コメント:岐阜大学医学部附属病院がんセンター 牧山 明資

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